実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その3)

2016年9月6日

2. 裁判から判決までの大まかな経緯。

こうして訴訟に至りました。提訴後は通常の流れに乗り、双方の書面のやり取りを裁判所を通して行いました。

まずは、こちらの請求の正当性を保証する証拠の更なる補完のための作業です。まず始めに現時点での原告の口腔状況の診断、これは私が行いました。器質的な歯や歯周状態及びテック(仮歯)や斬間義歯を含めた口腔の機能状態(日常、食事などが社会生活上滞りなく出来る状況かどうかなど。)を客観的に診断しました。

その上で、レントゲンやその他の資料などから、インプラントの埋入状態や治療の経過、原告の持っている領収書やインプラント手術に関する説明書、費用の説明のための書面やメモ類、そして原告自身の治療に関する記憶などを元に、何にいくらの費用がかかったのかを照らし合わせてゆきました。そして、それが正当とは思われないことをひとつひとつ根拠を示して相手側に問いただすという行為です。

そんな書面の遣り取りを始めると割とすぐに被告側はカルテは開示するとして、カルテやインプラントに関する費用を説明したときに用いた書類などが出て来ました。しかし口腔内写真や模型は出て来ませんでした。この時の言い訳がふるっています。いわく被告歯科では口腔写真は撮るが診断の為であって異常がなければ廃棄するので残っていないとか、模型については全然触れられていないとか。まあ、行き当たりばったりに思いついたことを理由とし、しかもその正当性が成り立っていないことに気づいていない感です。

後に意見書の中でこれらについては、容赦なく指弾していきましたが。しかし、カルテが出て来たのは助かります。

私はこれまで弁護士の依頼により、多くはありませんが、かといって少なくはない件数の歯科医療訴訟に患者側の協力歯科医として関わって来ています。これら訴訟又はそれに準ずる交渉行為(要するに弁護士を介した交渉)を為す時に一番と言っていい程重要なのがカルテ分析です。そういう意味ではカルテさえ手に入れば、徹底した分析をして治療に関する矛盾点、問題点を探し出す行為を行って来ましたし、私自身には苦にならない作業です。今回の件には、私がインプラントをやっていませんのでインプラント医を含め、全員臨床経験15年以上の複数の歯科医で徹底してカルテ分析を行いました。

しかし今回のカルテは私が訴訟がらみ以外も含め20数年以上見て来たカルテの中では最悪の物でした。なにせ必要な記載がそれこそ徹底して不足している状態、つまり治療の流れが系統的に追えないものでした。それでも我々は集まり、話し合い、また持ち帰って分析し、また会合を持つことを数回繰り返し、分析を終えました。率直に言うと、最初は困惑、最後はカルテから被告の心理面までも汲み取れる感にまでになり、あきれてしまう事の連続でした。

これにより被告側に提示する問題点、矛盾点をまとめ、それぞれについて原告弁護士に伝え今回の訴訟に活用してもらいました。そしてその後、お互いに相手側の主張に対する反論と、更なるお互いの主張及びその正当性を証していくやり取りが続いたのですが、その相手側の主張の裏付け作業の杜撰なこと。特に法的な場に於いては裁判所に敬意を示すというか最低限の礼儀というかアカデミズムというか医師としてのモラルとか矜持というか、最低、自分の主張することにはいい加減でない根拠があることをいちいち示しながら行うのが通常です。つまり、医科学的な根拠を、いわゆる教科書的な成書に出典を求めてそれを添付し示すことが必要です。これによりその主張が勝手な独自の根拠のない主張ではなく、広く一般的に求められる水準であることを示し特別に求められているものではないということを示し、主張の正当性を担保して行きます。つまりその添付する文献にはある程度の水準が求められるのが当然なのですが、被告歯科医師側の添付された文献にはインターネットで検索したある歯科医院のホームページの中の、その歯科医院のインプラントの説明だったり、治療の流れだったりで、言わば、広告のようなものをプリントアウトしたものでした。このような出典で医科学的な一般水準を示す根拠にしようとする姿勢に唖然とする他ありません。つまり、それを平気で出してくるということは、労力を掛け文献をきちんと探して示すということを為す意識や熱意がない、又は自分が何をしているのかが理解されていないかとなるでしょう。元々身につけた医療技術に学術的な裏付けがないことも透けて見えてきます。

このような経緯の中で、原告側の協力歯科医として、そのカルテ分析に携わったメンバーの連名で意見書を裁判所に提出するわけですから、自然と力が入ります。その意見書の実際を提示したいとは思うのですが、さすがにそれは差し障りがあると思われますので、その抜粋を書き出します。

☆次回に続く


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