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虫歯が全くないという人は極めて稀です。あの耐え難い痛みは誰もが一度や二度は経験していることでしょう。歯医者での治療もドリルで削ったり、抜いたりとまた痛い思いをします。一本でも歯を失うと食べ物が噛みづらくなったり、発音に支障がでたり、見た目が気になったりします。そうなりたくない為に、せっせと歯磨きに励んでいるのでが、残念ながら虫歯や歯周病を完全に予防する方法は確立されていません。
歯科医院が増え続けている事がそれを裏付けています。皆さんも心のどこかで歯がだめになったら歯医者に行って治してもらえばいいとの思いが強いのではないのでしょうか。そうした思いの裏には『どうせ歯は物を噛み砕くだけの道具なのだから』と言った歯そのものを軽く考える傾向があるようです。痛い思いはしたくはないが、壊れた道具(歯)は詰めるなり、入れ歯を入れるなり、修理をすればまた元のように噛める様になるはずだから、それで良いいった考え方です。虫歯や歯周病の予防が歯磨きがすべてと思うことと併せてこれが旧来の歯科常識と言えます。
しかし、ここ数年の間に各メディアを通じて、『噛み合わせが悪いと、頭痛、首すじや肩のコリ、腰痛、不眠、めまい、ボケ等』様々な症状が全身に現われることがあり、どうも歯は単に噛むためだけの道具だけではなさそうだと、少しづつ知られるようになってきました。いわゆる『顎関節症』と言う病名も一般的になりつつあるようです。歯と身体を切り離さない歯科治療を実践している私の立場から言うと、噛み合わせと全身の関連は皆さんの予想を遥かに超えています。歯も身体の一部なのですから分けて捉える方が不自然なのです。
野性の動物の世界では歯を失う事は死を意味します。歯は命と直結しているのです。単に噛むためだけの道具などと軽く考えてはいけません。口の機能に不調和があれば内臓に不調和がある時と同じように全身に波及します。口の健康なくして全身の健康はありえないのです。『歯も身体の一部である。けっして歯と身体を切り離して捉えてはいけない』これが『新.歯科常識』なのです。
噛み合わせに不調和があるとなぜ全身に様々な症状がでるのでしょうか?それを説明するために、私たちの身体を大きく二つに分けて見ましょう。ひとつは骨や筋肉、皮膚といった構造体として、もう一つは、呼吸、消化、免疫、歩行といった働き(システム)です。システムというのは、『複数の要素がお互いに影響して行われる複雑な働きのこと』です。口という器官も全身のなかにある様々なシステムのひとつです。例えば、口の中一杯のご飯の中から、一本の髪の毛をこともなく選り分けて取り出すことができます。なにげない日常の動作ですが、唇、歯、舌、下顎などが協調して初めてできる動作なのです。
食事や会話など口が機能するには顎や舌が動きます。それらを動かしているのは筋肉です。筋肉は脳からの指令で動きます。顎の動き方は顎関節の状態や、上下の歯の噛み合わせの状態に強く影響されます。他にも唾液の分泌など様々な要素が絡み合い、それらがきちんと調和されて初めて食事や会話をスムースに行うことができるのです。これらの要素のうちひとつでも不調和や不具合があると全体がうまく働きません。例えば足を捻挫したときなど、いつものようには歩けないのはもちろんですが、靴が合わなっかたり、靴の中に小石が入っているだけでも非常に歩きづらく、ストレスが掛かります。この時、無理をして歩き続ければやがて腰が痛くなったり、肩が凝ったり、ひどいときは頭痛まで起こってきます。同様に虫歯や歯周病、合わない詰め物、入れ歯などが原因で噛み合わせに問題があったり、噛み方(顎の動かし方)が偏っていたりすれば、いずれ他のシステムにも悪影響を与え症状として全身に現われるのです。ですから、顎の痛みや肩凝り以外にも高血圧、めまい、便秘、生理痛、不眠、イライラ、ボケなど一見噛み合わせとは無縁と思われるような症状も現われることがあるのです。
人間の生命の営みはもとより、社会生活でも多くのシステムがお互いに影響しながら複雑に絡み合い、ある程度の幅の中でうまくバランスを保っている時が健康で安定している状態と言えるでしょう。そしてこの『ある程度の幅』の大きさに個人差があることが、噛み合わせの不調和が全身に直結してしまうタイプの人と、そうでもないタイプの人に大別できる原因だと私は考えています。
私達人類の最大の特徴である直立二足歩行は、手が自由に使え、脳が大きく発達することをもたらしましたが、その分、ボウリング程もある重い頭が一番上にあるなんとも不安定な構造になってしまったのです。二本の足で自由な動きをするには、この頭を常に安定させなければなりません。この重い頭を支えるために、太くて強靭な筋肉が首の周りに付いており、これらの筋肉を適度に緊張させることで身体バランスを保っています。しかし、この筋肉が過緊張の状態になると、筋肉のなかを通っている血管や神経を圧迫し血行不良や神経伝達を阻害してコリや痛み、しびれ等の症状を全身に引き起こします。
物を食べる時に使う咀嚼筋や顎を支える筋肉は、この首の周りの筋肉に隣り合っているばかりでなく密接な関係にあり、一体となって働いています。口(の筋肉)の不調和が構造体としての筋肉バランスを崩し、全身に影響を及ぼすこともあるのです。例えば左側の歯に虫歯の痛みや欠損があったりして、右側ばかりで噛む癖(右噛み)が長く続くと右側の筋肉が発達します。左右の筋肉バランスが崩れ、頭は右側に傾きます。すると反射的に頭の傾きを直そうと反対側(左)の筋肉が働き過緊張の状態になり、痛みやコリが発生します。やがて傾いた頭の重みのために背骨が歪み、腰痛や内臓を圧迫し、口から遠い箇所にその影響が出てくるのです。
構造体として不安定な私達の身体バランスは全身の筋肉が司どっています。つまり、すべての筋肉の状態やバランスをより良く保つ事が、咀嚼や歩行等、身体の機能を円滑にするのです。特に咀嚼筋を初めとする首の周りの筋肉は進化の初期の段階では同じ呼吸筋(第二鰓弓.えら)の一部でした。言うならば出身が同じということです。この呼吸筋は頚部から胸部、腹部を経て肛門に至っています。従って口の不調和が同じ出身の筋肉を辿って『痔』を起こすこともあるのです。
上下左右の歯でバランス良く噛むことが身体バランスを安定させ、全身の健康につながるのです。そのためには、歯の本数が揃っているだけでなく、顎の動きの偏りや癖を、機能訓練や自律訓練などのリハビリで治し、スムースに口が動き、ストレスのない状態にしなければなりません。
食事や物を飲み込む時以外に、上下の歯が強く接触することは良いことではありません。寝ている時にする歯ぎしりはもちろん、起きている時にも無意識に歯をくいしばったり、噛みしめたりする癖は、50kg以上の力が歯にかかるだけなく、顎の関節や口のまわりの筋肉にもダメージを与え、やがて全身に悪影響を及ぼすことも少なくありません。(一晩の歯ぎしりは一生の咀嚼に相当すると言われるほどです。)それぞれの癖の原因は、精神的なストレスや噛み合わせのアンバランス等が考えられますが、歯の寿命を延ばし、口のまわりの筋肉や全身の筋肉へのダメージを防ぐためにも、これらの悪い癖は意識的に治さなければなりません。その方法が割りばし法です。
まず割りばしを割って一本にします。その一本の割りばしを軽く唇で挟みます。決して噛んではいけません。『口にのせる』感覚です。これで歯と歯が接触しない状態になり、口のまわりの筋肉が緩みます。そのまま仰向けになり、全身の力を抜いていきます。全身の力を抜くのは意外に難しいですが、繰り返すうちにコツが掴めてくるはずです。この体勢を30分以上続けます。注意点としては、蒲団やベットなどの柔らかいところではなく畳やカーペットなど、比較的固いところに仰向けになることと、体を冷やさない、急に起き上がらず、起き上がる時は充分体をほぐしゆっくり立ち上がって下さい。また、仰向けになった時背中や腰が痛い人はタオルなどを当てて下さい。膝を立てても構いません。
『割りばしを口に乗せ30分仰向けになる。』たったこれだけの方法ですが、多くの人が頭痛、肩こり、腰痛などが軽減または消失したりと顕著な効果を体験しています。。それ以外にも、整形外科、脳神経科、内科、はては心療内科にまでかかっても7年間とれなかった左半身のしびれが殆ど無くなった人や、導眠剤を飲まなければ眠れなかった人が割りばしだけで眠れるようになったりしています。噛みしめや歯ぎしりなどの悪い癖は想像以上に全身に悪影響を与えているのです。割りばし法を毎日行うことで、それらの悪い癖を治し、口のまわりの筋肉はもちろん、全身の筋肉をリラックスさせましょう。たとえ顕著な効果がなくとも、一日一回全身の筋肉を緩めることで、心身のストレスを和らげることができます。副作用はありませんので、噛みしめや歯ぎしりの自覚が無い人もぜひ試して下さい。
最近、インプラント(人工歯根)と呼ばれる治療法が注目を集めています。インプラント治療とは、歯が無くなった部分に手術をして、セラミックやチタンなどで作られた人工の歯根を顎の骨に直に埋め込むことです。そして埋め込んだインプラントが安定した後に、人工の歯を被せ、かみ合わせを回復する方法です。特定の医療機関以外では、自費診療のためか、第3の歯とか夢の治療などと喧伝されてもいます。しかし、インプラントには根本的な欠陥が二つあります。
天然の歯の根の部分は、歯根膜という繊維によって顎の骨に連結しています。この歯根膜にはクッションの役目もあり、歯と歯がかみ合った時の衝撃を吸収し和らげています。自分の歯を指で押してみると、少し歯が動くことが実感できると思いますが、インプラントは、顎の骨に直接埋め込みますので、クッションとなる歯根膜がありません。ですから、物を噛んだときの力が直に顎の骨に伝わってしまいます。こうした欠陥は、次のような場合に顕著に現れます。インプラントは単体で使われることはあまりなく、多くの場合ブリッジの土台として使われます。その時、近くの天然歯を一回り小さく削って、もう一方の土台とし、その両方の土台を人工歯(ブリッジ)でつなぎ合わせて、無くなった歯の部分を補うのです。こうしたブリッジは歯根膜のクッションがある土台と、そうでない土台に支えられていますので、物を噛む度に、一方の土台は少し沈み、もう一方は全く動かないという不自然な働きを強いられます。
もう一つの欠陥は、インプラントを生理学的に考えると、私達の身体にとっては異物でしかないということです。いくら生体に為害作用の極めて少ない材料を使っても100%身体に馴染むことはないのです。インプラントの上半分は口の中に出ていますので、ある生理学者はインプラントを「骨に刺さったとげ」と表現しています。その結果、歯茎や顎の骨を傷めてしまうことになり易く、安定して使っている患者さんも多くいますが、こうしたトラブルも少なくありません。このリスクがある限り、私は自分の診療に取り入れようとは思っていません。
歯が無くなった部分を補う治療は、自分で取り外しの出来る「入れ歯」でほとんどのケースに対応可能です。入れ歯に対して年寄り臭いといった誤解を持っている人が多いようですが、私自身、一本義歯を不自由無く使っています。
親知らずは十代後半から三十才くらいにかけて、上下の歯列の一番奥に生えてくる第三大臼歯の俗称です。文字どうり親も気付かない年頃に生え始めます。また、智恵や知識を身につけた年齢でもあることから智歯とも呼ばれています。その上下四本の親知らずが生え揃い、きっちりかみ合っていれば特別問題はないのですが、現代の日本人ではこうした人はたいへん少なく、親知らずそのものが無い人も珍しくありません。こうした傾向は世代が下がるにつれて多いようで、顎が小さくなっていることと併せて、退化傾向にあるといわれています。また、親知らずが1〜4本あったとしても、歯肉のなかに埋もれたままだったり、真横になっていたり、歯の一部だけが歯肉から出ているなど、親知らずの本数とその状態はまさに百人百様で、そのまま何事もなく過ぎることもありますし、親知らずの周りの歯肉が炎症を起こしたり、虫歯になってしまうこともあります。また、生えて来る場所が顎の一番奥の狭い所なので、かみ合わせバランスに影響を与えやすい歯でもあり、親知らずが原因で頭痛や首、肩のこりを起こすこともあります。
親知らずは他の28本の歯の歯根が完成された後、つまり、ある程度かみ合わせが完成された頃に生え始めますので、どうしても邪魔者扱いされがちで、歯肉の炎症や進行した虫歯でない場合でも抜歯の対象にされがちです。実際、明確な根拠がないまま一律に親知らずは抜くべき歯と考えている歯科医や患者さんも多いようです。しかし、口のなかにある以上、全体のかみ合わせバランスに、良くも悪くも影響を与えている場合もままあり、そうした診断なしで抜いてしまうと、急激なかみ合わせの変化を誘発して、身体に悪影響を及ぼすこともありますので、安易に抜歯することには問題があると思います。(しかし、すでに親知らずを抜いた経験がある人でも、その後の体調に変化がなければ特に心配する必要はありません。)また、親知らずは、手前の歯が抜けた時に、入れ歯の支えに使える場合もあり、功罪の判断の付けにくい歯であると言えます。
いずれにしても、上下の親知らずがきっちりとかみ合っている人が少ない現在では、親知らずの治療に関しては、まさにケースバイケースですが、抜歯をする場合は、かみ合わせバランスや歯全体の将来予測といった総合的な診断とその説明が必要条件となります。
私達は歯の無い状態で生まれてきますが、乳歯と永久歯の元となる歯 (しはい)は胎児の時にすでに形成されています。妊娠中の栄養は乳歯や永久歯の質(硬さ)に影響します。しかし、特別にカルシュウム剤等を摂取するよりも、栄養のバランスがとれた食事を心がけていれば問題無いと思います。むしろ子供の歯並びに影響を与えるのは、生後の母乳育児の期間の長さや、その後の食事の仕方、虫歯の有無、また、その治療の仕方にあるのです。歯並びが乱れる最大の原因は、歯の大きさと上下の顎の骨の大きさの不調和にあります。
歯の大きさは遺伝で決まっていますので栄養等で変えることはできません。しかし、顎の骨はよく使うことで成長発達し充分な大きさになります。その第一歩が母乳育児なのです。母乳は赤ちゃんが顎を精一杯動かせて飲んでいます。その時の顎の動きをよく観察すると母乳を飲んでいると言うより「母乳を食べている。」と言ったほうがふさわしいくらいに顎をよく使っています。この時期が将来の歯並びや噛み方(顎の使い方)を決定すると言っても過言ではありません。上下の第一乳臼歯(乳歯の奥歯)が噛み合うようになる二才頃まで母乳を続けるのが理想的です。顎を動かさずに飲めてしまう哺乳瓶や早い離乳は噛まずに飲み込むことを覚えてしまいますので、顎の成長にいいことはありません。母乳育児ができない場合でも、赤ちゃんが努力しないとミルクが出てこない哺乳瓶の乳首も市販されていますので、それらを使うようにしてください。
乳歯は生後六カ月頃から生え初め、三才頃に上下で十本づつの乳歯列が完成されます。この時期によく顎を鍛えることが、将来の歯並びや噛み合わせをよいものにする必要条件となるのです。歯並びが乱れるもうひとつの大きな原因は、乳歯の虫歯とその治療の仕方です。乳歯は、歯と歯が隣り合っている箇所が虫歯になりやすいのです。虫歯で歯が崩壊すると歯が前方に移動していまいます。全ての乳歯の下には、永久歯が控えていますので、永久歯も一緒に移動してしまい、その後生えてくる永久歯の歯並びも乱れてしまうのです。子供の虫歯予防も歯磨ばかりに目が行きがちですが、食事やおやつの与え方のほうに問題があるように思います。一旦ものを食べた後の二三時間は、お茶や水以外のものは口にしないことが虫歯予防にも効果があります。四六時中ごはんやお菓子、ジュース類が口の中にあることは絶対にさけましょう。
乳歯はいずれ永久歯に生え変わるからと,粗末に扱われがちですが、乳歯の状態がその後の永久歯に引き継がれる事が多いので、大切にしなければなりません。特にその後に生えてくる永久歯の歯並びを決定する,と言っても過言ではありません。どの子も乳歯の生えてくる場所は遺伝子で決定されていますので、乳歯そのものが、乱れて生えてくることはまずありません。乳歯の歯並びを乱す主な原因は、乳歯の虫歯による歯の崩壊です。乳歯は永久歯に比べると柔らかく、虫歯になりやすいのですが、乳歯が柔らかい事にも理由があります。
乳歯が生え始め、主に乳歯で咀嚼をする0〜6才位の時期は、身体の成長が著しく、顎も例外ではありません。0才と6才では顎の大きさはまるで違います。上下の乳歯は3才頃にガッチリ噛み合うようになりますが、その後も顎は成長し続けます。上下の乳歯がガッチリ噛み合ったままですと顎は自由に成長できませんので、乳歯が少しずつ擦りへることで、噛み合わせも変化し、顎の成長に調和していくのです。そのために永久歯に比べて柔らかく、虫歯にもなりやすいのです。しかし、小さい子供の歯の家庭でのケアは大変難しく、虫歯を完璧に予防することは困難です。やはり専門家の定期検診は必要ですが、虫歯になってしまった場合の治療法は大人の場合とは異なります。
乳歯は顎の成長と共に擦りへらなければならないので、乳歯の噛む面に虫歯ができた場合は、初期ならば進行止めの薬(サホライド)を塗ってもらいましょう。この薬は塗った箇所が黒くなる欠点がありますが、虫歯の進行をかなり遅らせることができます。さらに進行してしまった場合は、虫歯の部分を削りセメントかプラスチック(レジン)で埋めてもらいましょう。硬い金属は擦りへらずにその時点での噛み合わせを固定してしまい、片寄った噛み方や、顎のずれの原因になりやすいので、できるだけ避けましょう。歯と歯が隣り合った面が虫歯になった場合は、乳歯の周りに金属製のバンド(帯冠:薄い指輪のようなもの)を接着し、隣の歯との間隔を保ち、歯が移動するのを防止します。乳歯の治療は、歯の周りは硬く、噛む面は他の乳歯と同程度の硬さにすることが鉄則です。
いずれにしても将来の永久歯の歯並びや噛み合わせは、全身の健康にもつながりますので、こうしたことを前提に乳歯を管理、治療してくれる歯科医を見つけることが大切です。
小学生の6年間は、乳歯から永久歯へと生え替る時期と重なります。永久歯は乳歯よりも大きいので顎の成長に沿って一本一本時間をかけて、ゆっくり交換します。しかし、この時期に顎が充分発育しないと、永久歯が重なって生えたり、横へ飛び出して生えてきたりします。最近は、顎の未発達が原因と思われる歯並びの悪い子供達(若者も)が増えています。
顎の充分な成長発育にはよく噛むことが必要不可欠ですが、子供達の好きなカレー、ハンバーガー、スパゲッティ、寿司等、最近の食事は柔らかい物が多く、我々大人も含めて噛む回数は減る一方です。また、小顔がブームになるなど、歯並びや噛み合わせのことを考えると先が思いやられます。もはやこうした状況を変えるには、保育園、幼稚園、小中学校の科目に一日十分程度、硬めのガムやするめ等を噛む『顎の時間』を設けたら良いと思いますが、なかなかそうはいきません。そこで、家庭での食事の工夫として、具は大きいまま出す、歯応えのあるものを一品加える、水やジュースは食後にする、食パンの耳は取らない(できればフランスパン)、食事を急かさない、おやつは硬めのガムにする(ノンシュガーの物)等、自然に噛む回数が増えるようにしてあげてください。(こうした工夫を実行した幼稚園で、知能指数がアップしたという報告もあります。)
このような食事を心がけても、すでに歯並びの乱れが気になる場合は、やはり、専門医に相談してください。その際の注意として、見ためを整えることだけの矯正はしないことです。特に、抜歯をしての矯正は口の中をより狭くしてしまいますので決してしないことです。(最近は非抜歯矯正も増えてはいます。)子供の矯正は、心身共に成長発育の途上にするのですから、顎の成長を促し、よりよい噛み合わせを獲得させるのが目的でなければいけません。それには、取り外し式の装置が優れており、固定式の装置はあまりおすすめできません。さらに、歯の移動中でも、上下の歯の噛み合わせが矯正装置によって、確保されていることも重要なポイントです。どの矯正医も初回は相談だけで、いきなり治療を始めることはありませんので、じっくり相談し、慎重に検討してください。
歯を守るには、虫歯や歯周病を予防することが大切で、それには、ブラッシングを適切に行うことが一番の方法である。と信じられています。しかし、これは噛むための道具である歯の手入れ法であり、これだけでは不十分です。どんな道具でも上手に使ってこそ長持ちするのです。そこで、1.噛み癖(右や左ばかりで噛む)を直し、左右の歯でバランスよく噛む。(第3回参照)2.食事以外の時に歯を噛みしめたり、歯ぎしりをしない(乳歯の時の歯ぎしりは除く。)(第4回参照)この2点をしっかりと覚え、実行して下さい。こうしたことは、日常の生活で自分自身で出来ることですが、歯の治療の仕方でも歯の寿命は大きく違ってきます。
歯の治療は『必要以上に削らない、抜かない』ことと、複数の歯を一度に治療をしないことが大前提です。虫歯や歯周病以外に人工的に歯を侵襲することは極力避けなければいけません。一度削ったり抜いたりした歯は、二度と元にはもどりません。小さな虫歯治療でも削る範囲は必要最小限にしなければいけません。特に、抜けた歯の部分を回復するために、健康な両隣の歯を一回り小さく削って、複数の歯を連結して被せるブリッジは要注意です。例えば3本ブリッジの場合、健康な歯を削ることも問題ですが、新たに3本分のかみ合わせを回復しなければならなくなります。人工の歯で元のかみ合わせを正確に再現することは困難で、全体のかみ合わせバランスを狂わせる原因にもなりやすく、結果として歯の寿命を縮めかねません。こうした場合は両隣の歯を削らずに抜けた部分だけを回復する『入れ歯(1本義歯)』や、『接着ブリッジ』を選択し、歯科医にはっきり伝えましょう。また、歯はいずれは減っていくものですので、使う素材も保険や自費に拘わらず、天然歯に近い硬さの物を選んでください。
かみ合わせの変化は全身にも影響しますので、歯科治療でかみ合わせが狂っるてしまうことを避けるには、治療を受ける際の体勢に注意が必要です。小さな詰め物から総入れ歯に至るまで、かみ合わせのチェックは、立った姿勢か、椅子に腰掛けた姿勢で受けてください。治療台に寝たままの姿勢だと下顎がさがってしまい、本来の顎の位置とは違います。かみ合わせのチェックは食事をする時と同じ姿勢で受けて下さい。また、こうしたことを実践している歯科医を見つけることも歯と身体の健康を守る秘訣とも言えます。
新、歯科常識は2000年4月13日(木)から毎日新聞「らくらく健康術」に連載されたものを加筆編集したものです。 上記の掲載記事の無断転載を禁じます。掲載記事のすべての内容はアメリカ合衆国及び日本国の著作権法並びに 国際条約により保護されています。 Copyright (C) 2000 Shinya Hayashi All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.