噛み癖とそしゃく筋マッサージ

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自分の噛み癖はご存知ですか?噛み癖を治し、そしゃく筋のマッサージで顔のこりをほぐす事が、歯の寿命を伸ばします。歯の治療(修理)だけではなく、噛み方やそしゃく筋のほぐし方などを教えてくれる歯科医を選ぶ事が、自分の歯を守る第一歩です。

* 噛み癖とマッサージ – リハビリ編

(ガムを1枚用意してから読むと効果的です。)

歯の治療と言えば、詰めたり、被せたり、入れ歯を入れる等、噛むための道具の修理が主で、その道具(歯)の使い方である顎の動かし方まで治療する。と言う視点が欠けていました。

顎の動かし方(噛み方)は百人百様でその人独自のものですが、それが正しいのかを判断し、もし偏りがあればリハビリをし、修正しなければなりません。

例えば、右側の歯ばかりで噛む癖のある人は、必然的に使用頻度の高くなる右の歯が壊れやすくなり、左右の歯の寿命に差が出るばかりでなく筋肉も偏り、首や肩の懲り、腰痛、頭痛等、様々な症状の原因にもなってしまうのです。

それらを予防するためにも自分の噛み癖を知り、悪い癖があればリハビリをしなければなりません。その具体的な方法を解説します。

まず、ガムを一枚用意し、小さく折り畳み、口の中へ放り込みます。すると左右どちらかの奥歯に舌がガムを運びます。(そちら側があなたの利き顎と考えて良いでしょう。)ここからが肝心です。そのまま3分程意識せずに噛み続けて下さい。

自然に左右均等に噛んでいれば大きな問題はありませんが、左右どちらか一方に噛む回数が偏っていたり、一方でしか噛めなかった場合は要注意です。(一方にしか歯がなかったり、痛い歯がある場合はそれを是正しなければいけません。)こうした場合のリハビリ法は、少し大きめで硬めのガムを2~3分間、左右で5回づつ交互に噛みます。

決して長時間してはいけません。急激に始めると噛みづらい方の顎関節や筋肉を痛めてしまいますので少しずつゆっくり始めて下さい。

次は咀嚼筋マッサージです。両手を左右の頬に当てて奥歯で噛みしめるとグッと動く筋肉が咬筋です。同様に頭の両脇(耳の上あたり)で噛みしめると動く筋肉が側頭筋です。この二つの咀嚼筋を押してみて痛みを感じれば、その筋肉にダメージがあると言うことですので、これらの筋肉をマッサージして揉みほぐすのです。

首や肩、背中の凝りを揉みほぐすのは一般的ですが、『顔や頭の凝り』はあまり意識されていないため、咀嚼筋への長年のストレスが蓄積されてしまいがちです。

痛みを感じる部分を中心に、自分が気持ち良い強さでマッサージします。咀嚼筋へのマッサージで顔や頭だけでなく首や肩等の凝りが楽になる場合もあります。このマッサージもやりすぎは逆効果です。一回のマッサージ時間は1分以内とし、短いマッサージをこまめのするのが効果を高めるコツです。

かみ合わせ狂うと”全身”に悪影響

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当時の新聞連載では「かみ合わせ狂うと”全身”に悪影響」について、主に筋肉や骨格の構造に焦点をあてて記しましたが、その後、システム編を追加し、HP上に掲載して来ました。

かみ合わせが狂うと頭痛や肩こりなどを引き起こすことがあることは、今では世間の常識になっていますが、歯科医や歯科技工士でも正しいかみ合わせ、基準となるかみ合わせについて正しい知識を持つものは極めて稀です。おかしな話ですが、かみ合わせが狂ってしまう一番の原因は歯科治療にあるのです。残念ながら、その実情は今でも変わりありません。

当時の新聞掲載は後半の”構造編”のみです。

*なぜ口(歯)の不調和が全身に影響するのか?-システム編-

噛み合わせに不調和があるとなぜ全身に様々な症状がでるのでしょうか?それを説明するために、私たちの身体を大きく二つに分けて見ましょう。ひとつは骨や筋肉、皮膚といった構造体として、もう一つは、呼吸、消化、免疫、歩行といった働き(システム)です。システムというのは、『複数の要素がお互いに影響して行われる複雑な働きのこと』です。口という器官も全身のなかにある様々なシステムのひとつです。

例えば、口の 中一杯のご飯の中から、一本の髪の毛をこともなく選り分けて取り出すことができます。なにげない日常の動作ですが、唇、歯、舌、下顎などが協調して初めてできる動作なのです。

食事や会話など口が機能するには顎や舌が動きます。それらを動かしているのは筋肉です。筋肉は脳からの指令で動きます。顎の動き方は顎関節の状態や、上下の歯の噛み合わせの状態に強く影響されます。他にも唾液の分泌など様々な要素が絡み合い、それらがきちんと調和されて初めて食事や会話をスムースに行うことができるのです。

これらの要素のうちひとつでも不調和や不具合があると全体がうまく働きません。例えば足を捻挫したときなど、いつものようには歩けないのはもちろんですが、靴が合わなっかたり、靴の中に小石が入っているだけでも非常に歩きづらく、ストレスが掛かります。

この時、無理をして歩き続ければやがて腰が痛くなったり、肩が凝ったり、ひどいときは頭痛まで起こってきます。同様に虫歯や歯周病、合わない詰め物、入れ歯などが原因で噛み合わせに問題があったり、噛み方(顎の動かし方)が偏っていたりすれば、いずれ他のシステムにも悪影響を与え症状として全身に現われるのです。

ですから、顎の痛みや肩 凝り以外にも高血圧、めまい、便秘、生理痛、不眠、イライラ、ボケなど一見噛み合わせとは無縁と思われるような症状も現われることがあるのです。

人間の生命の営みはもとより、社会生活でも多くのシステムがお互いに影響しながら複雑に絡み合い、ある程度の幅の中でうまくバランスを保っている時が健康で安定している状態と言えるでしょう。

そしてこの『ある程度の幅』の大きさに個人差があることが、噛み合わせの不調和が全身に直結してしまうタイプの人と、そうでもないタイプの人に大別できる原因だと私は考えています。

*なぜ口(歯)の不調和が全身に影響するのか? -構造編-

私達人類の最大の特徴である直立二足歩行は、手が自由に使え、脳が大きく発達することをもたらしましたが、その分、ボウリング程もある重い頭が一番上にあるなんとも不安定な構造になってしまったのです。

二本の足で自由な動き をするには、この頭を常に安定させなければなりません。この重い頭を支えるために、太くて強靭な筋肉が首の周りに付いており、これらの筋肉を適度に緊張させることで身体バランスを保っています。

しかし、この筋肉が過緊張の状態になると、筋肉のなかを通っている血管や神経を圧迫し血行不良や神経伝達を阻害し てコリや痛み、しびれ等の症状を全身に引き起こします。

物を食べる時に使う咀嚼筋や顎を支える筋肉は、この首の周りの筋肉に隣り合っているばかりでなく密接な関係にあり、一体となって働いています。口(の筋肉)の不調和が構造体としての筋肉バランスを崩し、全身に影響を及ぼすこともあるのです。

例えば左側の歯に虫歯の痛みや欠損があったりして、右側ばかりで噛む癖(右噛み)が長く続くと右側の筋肉が発達します。左右の筋肉バランスが崩れ、頭は右側に傾きます。すると反射的に頭の傾きを直そうと反対側(左)の
筋肉が働き過緊張の状態になり、痛みやコリが発生します。やがて傾いた頭の重みのために背骨が歪み、腰痛や内臓を圧迫し、口から遠い箇所にその影響が出て
くるのです。

構造体として不安定な私達の身体バランスは全身の筋肉が司どっています。つまり、すべての筋肉の状態やバランスをより良く保つ事が、咀嚼や歩行等、身体の機能を円滑にするのです。特に咀嚼筋を初めとする首の周りの筋肉は進化の初期の段階では同じ呼吸筋(第二鰓弓.えら)の一部でした。

言うならば出身が同 じということです。この呼吸筋は頚部から胸部、腹部を経て肛門に至っています。従って口の不調和が同じ出身の筋肉を辿って『痔』を起こすこともあるのです。

上下左右の歯でバランス良く噛むことが身体バランスを安定させ、全身の健康につながるのです。そのためには、歯の本数が揃っているだけでなく、顎の動きの偏りや癖を、機能訓練や自律訓練などのリハビリで治し、スムースに口が動き、ストレスのない状態にしなければなりません。

噛むだけではない命と直結

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林歯科のHPのリニューアルに伴い、掲載済みのコラムを読み返してみたところ、内容が色褪せていないのに我ながら驚くとともに、複雑な思いになりました。毎日新聞に2000年4月から12回に渡って連載したものです。12年の歳月が過ぎましたが、今でも新しい情報として充分通用します。

一般の読者向けに内容も分かりやすく書いたのですが、今でも歯科医や歯科技工士、歯科衛生士の皆さんが知らない事も多く載っています。旧態依然の歯科界に軽い絶望を覚えますが、今日から順次再掲載いたしますので、一般の方はもちろん不勉強な歯科界の人達もぜひお読み下さい。


歯と身体

虫歯が全くないという人は極めて稀です。あの耐え難い痛みは誰もが一度や二度は経験していることでしょう。歯医者での治療もドリルで削ったり、抜いたりとまた痛い思いをします。

一本でも歯を失うと食べ物が噛みづらくなったり、発音に支障がでたり、見た目が気になったりします。そうなりたくない為に、せっせと歯磨きに励んでいるのでが、残念ながら虫歯や歯周病を完全に予防する方法は確立されていません。

歯科医院が増え続けている事がそれを裏付けています。皆さんも心のどこかで歯がだめになったら歯医者に行って治してもらえばいいとの思いが強いのではな いのでしょうか。

そうした思いの裏には『どうせ歯は物を噛み砕くだけの道具なのだから』と言った歯そのものを軽く考える傾向があるようです。痛い思いはしたくはないが、壊れた道具(歯)は詰めるなり、入れ歯を入れるなり、修理をすればまた元のように噛める様になるはずだから、それで良いいった考え方です。虫歯や歯周病の予防が歯磨きがすべてと思うことと併せてこれが旧来の歯科常識と言えます。

しかし、ここ数年の間に各メディアを通じて、『噛み合わせが悪いと、頭痛、首すじや肩のコリ、腰痛、不眠、めまい、ボケ等』様々な症状が全身に現われることがあり、どうも歯は単に噛むためだけの道具だけではなさそうだと、少しづつ知られるようになってきました。

いわゆる『顎関節症』と言う病名も一般的になりつつあるようです。歯と身体を切り離さない歯科治療を実践している私の立場から言うと、噛み合わせと全身の関連は皆さんの予想を遥かに超えています。歯も身体の一部なのですから分けて捉える方が不自然なのです。

野性の動物の世界では歯を失う事は死を意味します。歯は命と直結しているのです。単に噛むためだけの道具などと軽く考えてはいけません。口の機能に不調和があれば内臓に不調和がある時と同じように全身に波及します。

口の健康なくして全身の健康はありえないのです。『歯も身体の一部である。けっして歯と身 体を切り離して捉えてはいけない』これが『新.歯科常識』なのです。