「使える入れ歯」と「正しく噛むトレーニング」によって言語障害も改善されました。回復を物語るエピソードがひとつあって、新しい入れ歯を入れてからしばらく後、この患者さんのところに電話をかけてきた実のお姉さんが、「間違えました」とすぐに電話を切ってしまったそうです。発声が飛躍的に良くなったので、お姉さんは別人にかけてしまったと勘違いしたのです。
新しい入れ歯を入れたあと、言語障害が完治したわけではありません。ですから、この患者さんがうまく話せなかったのは、入れ歯のせいだけではなかったと言えます。しかし、入れ歯を作り直したのを境に、別人と間違えられるほどに発声がハッキリしたのは事実です。つまりこれまでは、合わない入れ歯によって無用の苦しみがもたらされていたのです。
この患者さんは、「話す」「食べる」という人生の楽しみを、10年にわたって失っていました。最終的にそれらの楽しみはある程度は取り戻されましたが、失われた時間は二度と戻りません。