味がなくなる、くぐもった声になる、という誤解

入れ歯を嫌う人たちの中には、機能的なことを問題にする人がいます。「入れ歯にすると食べ物の味がなくなる」とか、「くぐもった声になる」といった理由で、入れ歯を拒否する人が少なからずいるのです。

しかし、「味がなくなる」「くぐもった声になる」は、誤解です。「たぶんそうなるのだろう」という偏見に過ぎません。

入れ歯を入れた直後に、「食べ物の味がなくなった」と訴える人はたしかにいますが、これは入れ歯という人工物に適応するまでの、一時的な現象です。

物理的にきちんと作られた入れ歯でも、入れた当初に異物感があるのは当然です。それまで口の中になかったものを長時間入れておくわけですから、何かしらの異物感は出てしまう。それは味覚にも影響を及ぼします。

しかし、物理的にきちんと作られた入れ歯であれば、使っていくうちに異物感はなくなります。顎・口腔系が適応して、入れ歯が自分の体の一部になるのです。つまり入れ歯というのは「使いこなすためのトレーニング」を経て、はじめて機能を発揮するものなのです。

使いこなすためのトレーニングの一番の妨げになるのは、入れ歯への偏見です。「入れ歯にすると味がしなくなる」と思い込んでいると、顎・口腔系の適応が遅れます。思い込みというのは意外に大きなもので、何であれ絶対にうまくいかないと信じていれば、本当にうまくいかないものです。ですから、歯を失ったときに真っ先に必要になるのは、入れ歯への偏見を捨てることです。

発音に関する問題についても同じです。大きな入れ歯を初めて入れた人が、くぐもったような声になるケースは実際にあります。しかし、「いずれきちんと発音できるようになる」と信じ、入れ歯を使い続けていけば、遅かれ早かれ問題は解決されます。

先ほども述べたとおり、入れ歯は人工物で、天然歯よりは機能が劣ります。ですから、入れ歯を使いこなせるようになっても、以前とまったく同じ発音はできなくなります。しかしその変化は、ごく小さなものです。顎・口腔系が入れ歯に適応すれば、発音がおかしいと他人に悟られることはまずありません。

ちなみに、入れ歯は臭いというのも偏見です。きちんと手入れをしていれば、臭いは出ません。「毎日入れ歯を洗っているけれど口臭がある」というときは、口臭の原因は入れ歯以外のところにあります。

林裕之


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