『いい入れ歯・悪い入れ歯』 | 「死ぬまで自前の歯」という人はほとんどいない

さて、それでは歯はどれくらい保つものなのでしょうか。

人類学の世界では、歯の寿命は50年と言われています。生まれてから50年ほどすると、歯槽骨という「歯を支えている骨」がだんだんと吸収してしまい、歯を支えきれなくなる——。それが人類学が教える歯の一生です。

歯そのものも使っているうちに磨り減っていきますが、完全に磨耗するより先に、土台のほうがダメになるというわけです。
厚生労働省による調査では、歯の平均寿命はおよそ五九年です(平成十一年「歯科疾患実態調査」)。一番長保ちする下顎の前歯で六六年、一番早く抜ける上下の第一大臼歯で五〇年。それが、日本人の歯の平均寿命です。

先ほど述べたとおり、最後まで残るのは前歯です。永久歯の前歯が生えるのは六歳頃で、一番長保ちする下顎前歯の平均寿命が六六年ですから、七二歳になったときにはすべての歯が抜けていることになります。

ここでお気づきになった人もいると思いますが、歯の寿命は、肉体の寿命ほど長くはありません。平成十四年の時点で、日本人の平均寿命は男性七八・三二歳、女性八五・二三歳です(厚生労働省「二〇〇二年簡易生命表」)。つまり、大多数の人たちは死ぬ前にほとんどすべての歯を失うのです。

もちろん、上で挙げた数字はいずれも平均で、歯の寿命、肉体の寿命には個人差があります。しかし、個人差を含めて考えても、「死ぬまですべて自前の歯」という人はまずいません。

事故や病気などで若くして亡くなった人を除けば、皆無と言ってもいいでしょう。その意味では、歯は「消耗品」です。

歯の平均寿命についてもう一つ言えるのは、平均より早く抜け始める人も多い、という点です。
「四〇歳を過ぎた頃から体力がガクンと落ちた」

そんなボヤキをよく耳にしますが、歯の喪失が「体力がガクンと落ちる」のと時を同じくして始まるケースは少なくありません。

右で紹介した「歯科疾患実態調査」によれば、四〇歳から四四歳までの人が失っている歯の本数は、平均で一・八四本です。つまり、「四〇代ですべて自前の歯」という人は、平均的な存在ではないのです。

五〇歳を過ぎると、喪失歯の本数はさらに増えます。五〇歳から五四歳までの人が失っている歯は、平均で四・三七本。喪失歯が四本以上になれば、大半の人が入れ歯を使うことになるはずですから、「入れ歯の使用」という観点から見れば、五〇代前半は一つの節目と言えるでしょう。

林裕之

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