『いい入れ歯・悪い入れ歯』 | 治療をしているのに、なぜ歯は抜けるのか

『いい入れ歯・悪い入れ歯』プロローグ  あなたもいつか歯を失う
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「歯は消耗品」という事実に、どう対処すればいいか


現代人の永久歯が失われる理由のおよそ九割は、結果として虫歯と歯周病だと言われています。しかし、このことを不思議に思っている人も少なくないようです。というのも、虫歯も歯周病も、「症状が出るたびに治療を受けているのに、歯を抜かざるを得なくなるのは、なぜなのか?」という疑問が浮かぶからではないでしょうか。

 そこでまず、歯が抜けるまでの平均的なプロセスを考えてみましょう。

たとえば虫歯なら、最初はごく小さな齲食(虫食い)から始まります。これが進行していくと、黒い変色部分が目立ってきたり、痛みが出るようになります。たいていの人は、そこで仕方なく歯科医を訪ねます。歯科医は歯を少し削り、小さな詰め物を入れます。

ところが、それから何年かするとまた同じところに虫歯ができてしまう。詰め物のまわりが黒くなったり、詰め物が取れてしまったりして、再び歯医者を訪ねる羽目になるのです。

歯はさらに削られ、ひとまわり大きな詰め物が入りますが、しかし再発は続きます。くり返し同じような症状が出て、歯はそのたびに削られ、大きな詰め物が入ります。やがて神経を取らざるを得ない状態になり、神経を取った歯には金属の冠が被せられます。

ところが、そうなったらそうなったで、また別の症状が出てきます。根の先端に炎症が起こったり、歯周病が起こったりする。こうしたトラブルが続くうち、歯はグラグラと不安定になっていきます。動揺が激しくなってくると、いよいよ歯科医は言います。

「この歯は、もう抜かざるを得ませんね」

歯周病によって歯が失われるときも、最初に小さな症状が出て、それが徐々に大きくなっていき、最後は抜かざるを得ない状態になる。何かトラブルが起こるたびに治療を受けても、基本的な流れは変わりません。

つまり、虫歯であれ歯周病であれ、なってすぐに歯が失われることはありませんが、再発をくり返すうちに症状が進み、最終的に抜かざるを得ない状態になるのです。

ではなぜ、治療をしているのに再発し、症状が進むのでしょうか。

それは、歯は使っていくうちに弱くなるからです。ものを噛めば、歯に圧力が加わります。圧力が加わりつづけているうち、歯はだんだんと弱くなっていき、さまざまな病気に冒されやすくなります。

虫歯や歯周病が再発をくり返し、最終的に歯を抜かざるを得なくなるまで進行するのは、そのためです。歯はとても頑丈なものですが、歯にも当然寿命があります。

つまり、一生涯の内に歯や歯周組織に受けるストレスの総量が、その歯や歯周組織の耐えられる量を越えた時に、歯は抜かざるを得ない状態になると言えるでしょう。そしてまた、そのストレスに耐えられる量というのがその人、その人、そしてまたその歯その歯で違うのです。

二八本(親不知を含めると三二本)の永久歯は、それぞれ寿命が異なり、特殊な事情がないかぎり、歯は一本ずつ失われていきます。

最初に失われる歯と、最後まで残る歯は、何が違うのかといえば、それは、「圧力の大きさ」です。受ける圧力が大きい歯は早くダメになり、小さい歯は長く残ります。

奥歯と前歯を比べると、寿命が短いのは奥歯です。奥歯には根が複数本あり、前歯には根が1本しかありませんから、構造体として比較すれば、奥歯のほうが頑丈です。しかし現実には、奥歯のほうが先に抜ける。これは、奥歯のほうが常日頃受けるストレスが大きいということを意味しています。

たいていの場合、最初に抜けるのは第一大臼歯です。第一大臼歯は別名を「六歳臼歯」と言って、生まれて最初に生える永久歯です。

第一大臼歯が生えると、ほぼ同時期に乳歯の前歯が抜け、生え替わりが始まります。生え替わりの期間、上下の顎をずっと支えているのは、四本の第一大臼歯です。そのときに受けるストレスは、他のどの歯よりも大きなものです。

最初に生えるのですから、ストレスを受けていた期間も一番長くなります。その点から考えても、第一大臼歯が最初に失われるのは自然なことですし、同じ理由で、二番目に抜ける歯、三番目に抜ける歯は、おおよそのパターンのようなものがあります。

そうして「最後の一本」に行き着き、その最後の一本も、いずれは失われるというわけです。

林裕之

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