『いい入れ歯・悪い入れ歯』 | 顎口腔系のストレスが、歯の寿命を縮める

顎・口腔系と咀嚼システム。二つの専門用語が現れて、いささかとまどった人もいるかもしれません。しかし、この二つについて理解することは、歯の寿命をまっとうさせるために欠かせないことです。

歯の寿命を縮めているものは何か、ひとことで言えば「顎・口腔系のストレス」です。顎や顎関節、舌、そのまわりの筋肉・神経などがストレスを受けていると、咀嚼システムのバランスが狂って、歯がダメージを受けるのです。

咀嚼システムのバランスが狂う——。これは簡単に言えば、左右均等に噛めなくなる、ということです。

たとえば、上顎右側の親不知が痛くなったとします。これを放置しておけば、右の歯列は痛みでうまく使えなくなります。簡単に言えば、左側の歯列だけで噛むようになる。

すると、噛み方に偏りが出て、特定のポイントにストレスが集中します。

左右均等に噛めなくなったため、それまで歯列全体にバランスよく分散していたストレスが、一部分に集中してしまうわけです。他よりも大きなストレスを受けた歯が早くダメになることは、すでに説明したとおりです。

 同じように、噛み合わせに不調和があるとき、顎運動に不調和があるとき、顎関節の動きに不調和があるときなども、顎口腔系はストレスを受けます。多かれ少なかれ、それは咀嚼システムのバランスを狂わせ、ストレスの集中を起こします。

 顎・口腔系のストレスには、もう一つ、「噛みしめ」もあります。噛みしめというのは、「歯を食いしばる癖」のことです。一般によく知られているのは眠っているときの歯ぎしりですが、起きて活動しているときにも、無意識のうちに歯を食いしばる行為がくり返されるケースがあります。

 グッと強く歯を噛みしめたときの圧力は、およそ50Kgだと言われます。それほど大きな力が頻繁に加わっていれば、歯はもちろん、顎・口腔系全体がダメージを受けます。

それが咀嚼システムの急激な変化につながることは当然ありますから、歯を長保ちさせるには、噛みしめが起こらないようにする必要もあります(噛みしめの対処法は後ほどで詳述します)。

 くどいようですが、虫歯も歯周病も、歯磨きでは完全に防げない。したがって、いくら歯を磨いても、それだけでは歯の寿命をまっとうさせることはできません。歯磨きが大切だという考え方は、「歯は人体の一部」という事実から離れているように思えてなりません。

なるほど、歯を単なる物体として捉えれば、清潔にするのが一番かもしれません。しかし歯は、「系」の一部であり、システムの一部です。歯の寿命をまっとうさせるために最も大切なのは、顎・口腔系のストレスをなくし、咀嚼システムをバランスのいい状態に保つことなのです。

顎・口腔系のストレスを取り除き、咀嚼システムのバランスをよくする。歯周病にしても虫歯にしても、それが最大の予防なのです。

林裕之

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