以前、私たちの病院に、ある難病指定の病気を持った患者さんが訪ねてきました。患者さんは女性で、当時64歳。その病気の主症状は、言語障害と歩行障害です。言語障害はかなり重く、診察予約の電話では、言っていることがほとんど聞き取れませんでした。
来院した理由は、「もう少しいい入れ歯を入れたい」というものでした。毎日の暮らしに苦労が多いので、「せめて入れ歯だけでもいいものを作ろう」というわけです。
診察してみると、その患者さんの歯茎にはひどい炎症が起きていました。炎症は歯茎全体に及んでいましたが、とりわけひどかったのが上顎の前歯部の歯茎で、指で押すとブヨブヨと1cmくらい動きました。
原因は、小さすぎる入れ歯です。
本来の歯列よりも、ずっと小さい総入れ歯が入っていたために、炎症が起きていた。その患者さんが「小さすぎる総入れ歯」を使うようになったのは、来院時より10年ほど前だったそうですが、当初から合わなかったにもかかわらず、「入れ歯とはこういうものだろう」と我慢して使っていたそうです。