——「使える入れ歯」を手に入れるための第一条件とは——
健康寿命と平均寿命 健康寿命という言葉があります。「寿命」の上にわざわざ「健康」という冠が載せられているのは、介護などを必要としない健康で自立した生活ができる年齢のことで、日本人の健康寿命は男性で72.3歳、女性で77.7歳。平均寿命は男性78.3歳、女性85.2歳。(2004年調査)つまり6〜8年のギャップがあるのが現実なのです。
健康を失えば、日常生活に支障が出ます。毎日の暮らしに苦痛がともなうことも珍しくありません。ですから健康寿命は、一年でも長いほうがいい。健康寿命と平均寿命をぴったり一致させるのは不可能だと思いますが、平均寿命を延ばすことよりも、健康寿命を延ばすことのほうが大切でしょう。
国家財政という観点から見ても、健康寿命と平均寿命とのギャップは大問題です。国が負担している医療費が、国家財政を大きく圧迫しているのは周知のとおりですが、さまざまな医療費のうち、最も大きな割合を占めているのは、健康寿命が終わった人たちへの治療費です。
健康寿命を延ばすことは、国家財政という点からも、人間の幸せの追求という点からも、国民全体が抱える大きなテーマです。
しかし、こと歯に関して言えば、健康寿命は平均寿命に限りなく近づけることができます。なぜなら、歯が失われても入れ歯で補えるからです。
入れ歯というのは人工物ですから、天然歯に比べれば機能が劣ります。天然歯とまったく変わらない入れ歯は存在しません。いわんや天然歯以上の入れ歯もありません。しかし私たち歯科医は、食べるのに支障がない入れ歯、話すのに支障がない入れ歯なら、条件さえ整えば提供できます。
逆に言えば、死ぬまで健康に生きていくためには、入れ歯は必要不可欠です。もしこの世に入れ歯がなかったら、大半の人が歯にまつわる苦労に耐えながら生きることになる。ものを噛み、食べることは生命を維持するための根本的な活動ですから、入れ歯がなければ、健康寿命ばかりか平均寿命も大幅に縮まるでしょう。
野生動物にとって、歯の喪失は「死」に直結しています。草食動物も肉食動物も、成獣になったらずっと同じものを食べますから、歯が抜けて食べられなくなれば、遠からず死に至る。
動物と人間はもちろん違いますが、それでも根本は同じです。生きていくためには食べなければならず、食べるには歯が必要です。歯は、生命を支える重要な「臓器」なのです。
林裕之