歯科医が作り出した苦しみ

ではなぜ、山型の入れ歯が作られたのか。少し回り道になりますが、順を追って説明してみましょう。
 この患者さんは、まず下の第二臼歯を失いました。失ってからは、しばらく放っておいた。なぜ放っておいたのかといえば、それでも食事ができたからです。

たとえ1本でも歯が抜ければ、ものを噛むのに支障が出ます。しかし、人によってはその状態に慣れ、さしたる不便もなく食事ができるようになるケースがままあります。この患者さんは抜けた状態に適応できたケースで、歯が抜けたあとの何年かを、入れ歯なしで過ごしていました。

しかし歯というのは、対合する歯がなくなると伸び出してくるものです。抜けた歯を放っておくと、そこに対合する歯が長くなる。この患者さんの場合、下の第二臼歯を抜けたままにしていたため、上の第二臼歯が下に伸び出していました。

上の歯が伸び出してからしばらくして、下の歯にブリッジが入りました。ブリッジというのは、簡単に言えば「固定式の義歯」です。

ところが、このとき作られたブリッジは、伸び出してきた上の歯に合わせて作られていました。つまり、本来よりも凹んだブリッジが入っていた。むろんそんなブリッジは不良品です。

その後、伸び出してきた上の歯が抜けました。抜けたところには部分入れ歯が入りましたが、これは下のブリッジに合わせて作られていました。つまり、上下ともに本来の高さではない義歯が入っていたわけです。

これに対して、逆側の歯列は本来のままの高さです。噛み合う高さが左右で違うのですから、噛み合わせがバラバラになるのは言うまでもないでしょう。その結果、この患者さんはお粥のようなものしか食べられなくなっていたのです。


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