歯科治療で死亡事故発生…意外に恐ろしい麻酔とデンタルショックの話

第22回 歯科治療で死亡事故発生…意外に恐ろしい麻酔とデンタルショックの話

「Thinkstock」より

2月20日に、歯科治療が原因とされる死亡事故の報道がありました。昨年7月に虫歯治療を受けた2歳女児が死亡したというもので、痛ましい結果に言葉もありません。

記事からは、治療した歯の部位や症状、治療手順、容体急変後の対処などの情報が得られませんので、正確に検証することはできませんが、重大な結果は歯科医として他人事ではないですし、記事中のいくつかのキーワードを基に考察することで、治療者、受診者双方にとって再発防止の一助になれればと思います。

記事中の「キーワード」で報道を整理すると、以下のようになります。

・亡くなったのは「2歳女児」
・治療は子どもの治療を専門とする「小児歯科医院」
・使われたとされる麻酔薬は、歯科治療は元より一般医科でも局所麻酔剤として世界中でもっとも使われる「リドカインを成分とする麻酔薬(商品名:キシロカインなど)」
・亡くなったのは治療の2日後

そして警察による司法解剖の結果、死因は「急性リドカイン中毒による低酸素脳症」とみられ、業務上過失致死の疑いも視野に捜査されているようです。

前提として、歯科治療中、または歯科治療が原因とされる死亡事故は極めてまれですが、結果が重大なので必ず報道され、記憶に残ります。過去には、「歯科治療用のフッ化ナトリウム(NaF)と間違えて、毒物のフッ化水素酸(HF)を女児の歯に塗布してしまい死亡(1982年)」や、「抜去した歯を口の中に落としてしまい、その歯が器官に詰まった窒息死(86年)」、今回と同じように「麻酔後に4歳の女児が死亡した事故(2002年)」などが起こっています。

また、インプラント手術中に動脈を傷つけたことによる死亡事故などが挙げられます。これは、業務上過失致死罪で起訴され、禁錮1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決が13年に東京地裁で言い渡されています。

 今回の事故の死因は「急性リドカイン中毒による低酸素脳症」とされていますので、歯科用の局所麻酔に絞ってみても、死亡事例は少ないです。麻酔剤アレルギーでのアナフィラキシーショックや、痺れなどの後遺症が残ってしまったケースなどは、死亡例よりは多いようですが、きちんと調査した論文などが見当たらないため、発生頻度などを正確な数字で論じることはできません。

 しかし、歯科治療はドリルを使って歯を削る作業が主で、痛みや苦痛を想像して受診前から過剰に緊張している場合などもあり、重篤な症状に至らなくとも、何かのきっかけでショック症状を起こすことがあり、これらを歯科特有の「デンタルショック」と呼んでいます。

デンタルショック

デンタルショックは歯科治療時に起こるショック症状で、次の4つが代表的なショックです。

(1)疼痛(とうつう)性ショック

 歯を治療するときの痛みが原因となって、反射的に脳の循環障害を生じた場合に起こる。気分が悪く、吐き気がするようになり、また顔色も悪くなる。特に、患者が恐怖心を抱いたり、不安な状態で精神的に緊張しているとショックを起こしやすい。口の中の注射、歯の切削、歯髄の摘出等の際、恐怖心を抱いていると、その痛みの刺激で三叉(さんさ)迷走神経反射が起き、血圧降下、脈拍減少など、脳貧血の症状を呈する。予防のためには、恐怖心を和らげるほか、無痛処置などの疼痛抑制法がとられる。

(2)局所麻酔剤中毒

 局所麻酔剤の使用量が多すぎるとき、血中の局所麻酔剤の濃度が上昇し、中枢神経や心臓を抑制するために生じる。しかし、歯科治療時の局所麻酔剤は量が少ないため、中毒を起こす可能性は低い。

(3)局所麻酔剤のアレルギー

 麻酔剤に対して過敏な人に、この麻酔剤を投与するとショック症状を起こす。防止するためには、あらかじめ局所麻酔剤の過敏反応のテストを行う。また、ラテックスアレルギーを持つ患者は歯科医のゴム手袋によって腫脹やじんましん、ぜんそく発作、アナフィラキシー反応などのアレルギー症状を起こすことがあり、注意が必要である。

(4)血管収縮剤と心疾患

 普通、局所麻酔剤には、麻酔効果の延長と急性中毒の防止のために血管収縮剤が含まれている。なかでも、もっとも多く用いられているのがアドレナリンである。しかし、アドレナリンは心臓を刺激するため、心疾患のある人には悪影響(心機能不全による肺水腫やショック)を及ぼすことがある。予防のためには、前もって心疾患の有無を確認することが必要である。[土谷尚之]
(出典:「日本大百科全書(ニッポニカ)」<小学館>)

ここでも(1)以外の3項目で挙げられるように、麻酔は慎重に扱わなければなりません。今回の不幸な事故も、麻酔に起因されたものとされています。しかし、歯科では麻酔を使っての無痛治療はなくてはならず、麻酔なしの歯科治療は成り立ちません。子どもへの治療でも頻繁に使われます。安全性の高い薬剤ですが、たとえ少量でも誤って血管内に打ってしまうと、血管内を逆流して外頸動脈、総頸動脈から内頸動脈を経由して脳に至り、中枢神経症状が出現し、低酸素脳症を起こしてしまう場合があり、今回の事故はこれに当たるのではないかと思われます。
 通常、飲み薬を含め薬の使用量は年齢と体重で決まります。特に2歳児ということを考えると、身体も未発達ですし、体重も大人の10分の1ほどですので、ごく少量でも反応してしまった可能性があります。いずれにしても、麻酔はより細心で慎重な取り扱いをしなければなりません。

 今回の事故も、麻酔の打ち方とその量、打った部位、麻酔接種後の患者の観察、容体急変後の適切な処置(救急救命)に落ち度があったのでなないかと推測できます。

 一般に歯科医は、救急救命処置の方法などに疎い場合が多いので、救急救命処置法の受講を義務付け、歯科医の緊急時の対応能力向上を図る制度なども必要です。

 また、食物アレルギーをはじめ、なんらかのアレルギーを持つ人は、子ども、大人問わず増えているのも事実なので、まず薬剤アレルギーの有無を、治療者、受診者双方で事前に確認することも大切です。リドカインへのアレルギーの有無を調べてくれる医療機関もありますので、心配な方は受診されるといいでしょう。

 また、歯科治療を受ける際に、デンタルショックに対応できる対策が整っていることを歯科医に確認しておくことも忘れてはいけません。

文=林晋哉/歯科医師

参考資料
局所麻酔による全身的偶発症
https://www.showayakuhinkako.co.jp/medical/odt/odt04.pdf

局所麻酔薬リドカイン(キシロカイン)アレルギーの有無を診断(埼玉医科大学) 
https://www.saitama-med.ac.jp/hospital/center/allergy.html

●林 晋哉(歯科医師)
1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業(を併設)、2014年千代田区平河町に診療所を移転。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践しています。著書は『いい歯医者 悪い歯医者』(講談社+α文庫)、『子どもの歯並びと噛み合わせはこうして育てる』(祥伝社)、『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』(新書判) 、『歯科医は今日も、やりたい放題』(三五館)など多数。

林歯科HP:httpss://www.exajp.com/hayashi/


新刊情報!​ 林歯科の新刊本(Kindle版)がリリースされました!

入れ歯になった歯医者が語る「体験的入れ歯論」 -あなたもいつか歯を失う- Kindle版

-内容紹介-​

入れ歯になった歯医者が語る「体験的入れ歯論」 -あなたもいつか歯を失う- Kindle版

  • 歯抜け歯医者が本音で語るあなたの知らない歯科医療
  • 虫歯の痛み、歯周病の痛み、抜歯の切なさを知り、自ら入れ歯を使っている歯医者が語る”体験的入れ歯論”
  • 「歯磨きよりも大切な予防法」、「歯医者で変わる歯の寿命」
  • 「噛み合わせと全身の健康」
  • 「入れ歯を笑う者はインプラントで泣く」
  • 「いい歯医者・悪い歯医者の見分け方」

などなど、知ると歯の寿命が延びる歯医者の本音を教えます。

​*Kindle / キンドルは​無料のアプリです。スマートフォン、タブレット、PCなどで簡単にダウンロードできます。こちら⬇からダウンロード出来ます。
httpss://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/fd/kcp



にほんブログ村 病気ブログ 歯科医へ
↑↑歯科医療情報ブログ・ランキングに参加しています。よろしければ応援クリックをお願いします。


2018年の干支は戌、ですので犬の歯についての雑学・・

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

  
2018年の干支は戌、ですので犬の歯についての雑学です。

犬の歯と本能 ーよく噛んで食べなさいと言っても無駄ですー

私たち人間にも犬歯という歯がありますね。糸切り歯と呼ばれる前歯の真ん中の歯(中切歯)から数えて3番目の尖った歯です。生える位置が上の方になると八重歯と呼ばれます。日本ではチャームポイントとなる八重歯ですが、西洋ではドラキュラのようだと嫌われる傾向があるようです。

この犬歯よりも後ろに臼歯と呼ばれる臼状の歯が4本〜5本(親知らず含む)の歯が並んでいます。前歯で噛み切り、臼歯で咀嚼するのです。

前歯と犬歯は肉食系の歯、臼歯は草食系の歯の特徴を備えているので、我々人間は、肉食、草食(野菜と穀類)を併せた雑食なのです。

私たちは、食事のときによく噛んで食べなさいと言ったり、言われたりしますが、食べものを充分咀嚼し、消化液でもあり、消毒作用もある唾液とよく混ぜ合わせることはとても大切で、消化の第一歩でもあるからです。

ところが、犬は食事の時によく髪ことはありません。咀嚼はしないのです。

犬を飼ったことのある方なら誰でもご存知なのが、犬によく噛んで食べなさいと言っても全く言うことを聞かないこと。犬の食事時間は非常に短く、ササミジャーキーなどをあげても2度ほど噛んですぐに飲み込んでしまいます。

これは、犬は本来肉食獣なので、肉食獣の歯と消化システムを持っているからです。

肉食獣の歯は前歯だけでなく奥歯も尖っていて、その先端は喉の方に向いています。食べものを飲み込める大きさに噛み切って喉方向(食道方向)に送り込みやすく出来ているのです。すり潰すような平らな臼歯はないのです。

上下の犬歯(牙)も発達して深く噛み合っていますので、この犬歯がガイドとなってまっすぐ口が開き、まっすぐ戻る口の動きになります。犬歯のない馬や牛のように口が横に動くことはありません。

つまり、犬の食性を一言で言えば、飲み込めさえすればそれでいいのです。犬によく噛んで食べなさいと言っても無駄なのです。

犬用のガムはよく噛みますが、これは、食事というより狩りの名残です。タオルやロープを咥えさせて引っ張ると唸り声をあげ、足を踏ん張って、首を振りますが、仕留めた獲物に噛み付いて首を振って引きちぎる行為がDNAに刻み込まれているのです。

​柔らかい​ドックフードの普及​で、本能である噛みつき欲ひきちぎり欲が満たされない​​​ワンちゃんのために、タオルやロープでの咥え遊びをしてあげてください。​

​イラストは​「国産・無添加ドッグフードPERORI」さんからお借りしました。
httpss://natural-food.jp/store/contents/dogfood/article-76/


にほんブログ村 病気ブログ 歯科医へ
↑↑歯科医療情報ブログ・ランキングに参加しています。よろしければ応援クリックをお願いします。


若くして入れ歯、うつになる人も…「入れ歯=悪い」は完全に間違い!十分な咀嚼で全身健康

ある新聞の相談コーナーに、入れ歯に関する2つのショッキングな相談が載っていました。

(1)29歳、1児の母である女性

「若くして入れ歯になり、うつ状態になってしまい困っている」と訴え、良いアドバイスを求めているのですが、その文には自分を攻める文言が並びます。
「入れ歯のママ・嫁なんて家族に申し訳ない」
「どうしてもっと歯を大事にしなかったのか」
「入れ歯で営業の仕事なんてできるのか」
「これから会食など、どうなるのか」
「入れ歯を入れて顔がどう変わってしまうのか」
「友人や同僚にどう思われるのだろう」
入れ歯になったことで、こうした思いにとらわれて何も手につかず、うつ状態に陥ってしまったのだそうです。

(2)30代男性

この方も、やはり「入れ歯になって落ち込み、立ち直れない」と訴えています。
「ブリッジが土台ごとだめになり、インプラントも適用不可で、入れ歯になり落ち込んでいる。どうにか仕事はしているが、気持ちは暗くなる一方」
この2人に共通するのは、入れ歯に対する負の感情がとても強いことです。世間一般の風潮や年齢を考えれば致し方のないことかもしれませんし、私も歯科医療に無縁の素人だったら、若くして入れ歯という事実をすんなり受け入れることは困難だったかもしれません。
しかし、どんな年齢でも、どんなに嫌だとしても、歯がない状態のままでいるよりも、入れ歯を入れて上下の歯を28本に揃えてきちんと咀嚼できる状態を維持することが全身の健康につながります。

いずれにしても歯科医が悪い

この相談で一番気になるのは、この方たちの主治医(歯科医)の対応です。若い人に入れ歯を入れる時のメンタル面の適切なサポートはあったのでしょうか。

この方たちのように、うつ状態にまで落ち込む背景には、入れ歯に対する負のイメージがあります。歯科医に限らず医療者の使命のひとつは、治療を受けた患者に新たな病気や症状を与えてはならないということですので、こうして歯科治療で落ち込んでしまう患者さんを生み出していけないはずです。

入れ歯の負のイメージを払拭し、噛み合わせを確保し、食べものを咀嚼することが全身の健康の基だということを丁寧に説明し、患者さんの心理的な負担を取り除いてあげるべきです。それがなされていなかったことは上記の投稿に如実に表れています。

問題は、歯科医側にも入れ歯に負のイメージを持っている者が少なくないという点にあります。特に、インプラント医に代表されるように、入れ歯に負のイメージを植え付けて、インプラント治療に誘導するような歯科医もいます。また、こういう歯科医のもとで働く歯科衛生士などは、「入れ歯は良くないもの」と信じ込んでいる人が多く、それが言動に出るのも特徴です。

そもそも、2人目の投稿者の男性のように、インプラント適応不可の場合はインプラント医でも入れ歯で咀嚼を回復してあげなければならないのに、インプラントより劣っていると聞かされている入れ歯を入れられたなら、この方のように落ち込んでも仕方ないでしょう。

この2人の相談者のように、歯科治療を受けてことでひどく落ち込んだり、うつ状態になってしまうなど、あってはならないことです。しかし、「よく磨かないと入れ歯になってしまいますよ」などと脅し文句を使う衛生士や歯科医が、世の中にはびこっています。

入れ歯を貶めることは自身の職業の全否定であることを、歯科医療者は肝に銘じるべきです。そして、世間一般にある入れ歯への負のイメージを払拭し、不要な嫌悪感を取り除くことで、冒頭の投稿者のような人を生まない世の中に変えなければなりません。

どんな年齢の人にも快適な入れ歯を提供し、よく噛めることで笑顔にすることが歯科医療者の務めなのです。

文=林晋哉/歯科医師

●林 晋哉(歯科医師)
1962年東京生まれ、88年日本大学歯学部卒業、勤務医を経て94年林歯科を開業(を併設)、2014年千代田区平河町に診療所を移転。「自分が受けたい歯科治療」を追求し実践しています。著書は『いい歯医者 悪い歯医者』(講談社+α文庫)、『子どもの歯並びと噛み合わせはこうして育てる』(祥伝社)、『歯医者の言いなりになるな! 正しい歯科治療とインプラントの危険性』(新書判) 、『歯科医は今日も、やりたい放題』(三五館)など多数。

林歯科HP:httpss://www.exajp.com/hayashi/


にほんブログ村 病気ブログ 歯科医へ
↑↑歯科医療情報ブログ・ランキングに参加しています。よろしければ応援クリックをお願いします。


異常な歯科医余剰で患者奪い合い、深刻な看護師不足…全国の歯学部を看護学部に移行すべき

第19回 異常な歯科医余剰で患者奪い合い、深刻な看護師不足…全国の歯学部を看護学部に移行すべき | 文=林晋哉

安倍晋三首相への“忖度”が話題になるなど、内閣支持率を急落させるきっかけとなった「加計学園問題」も、“きな臭さ”は残るもののだいぶ下火になってきましたが、この問題で明らかになったことのひとつに、「獣医師の適正数(需給問題)」がありました。

日本獣医師会によると、獣医師の総数に過不足はないものの、ペットなどの治療をする、いわゆる動物病院の獣医師は多く、酪農や養豚、養鶏など産業動物診療分野に従事する獣医師が少ないという獣医師の職域偏在が明らかにされました。

一方、人間相手の医療分野では、根本的な需給バランスが問題になっており、医師と看護師不足は長年の課題です。特に、看護師不足は深刻で、比較的看護師の多いとされる九州と四国で有効求人倍率は1~2倍、関西以北では2~5倍と“西高東低”が定着してしまっております。

その格差を人口10万人当たりの看護師数で見ると、一番多い高知県は1314人ですが、埼玉県(569人)、千葉県(625人)、神奈川県(672人)、茨城県(674人)、東京都(727人)と、関東各県と比べるとほぼ2倍の格差です。看護師が不足すると医療事故が増えるという報告もあり、看護師不足解消は喫緊の課題です。

逆に、歯科界では歯科医師は過剰です。国が目標とした歯科医師数は、人口10万人当たりの歯科医師数は50名で、これは33年前の1984年にすでに達成しています。同年の歯科医師数は6万1000人ですが、2012年には10万人を超え、現在も毎年約2000人ずつ増え続けています。

他の医療分野に比べ、異常ともいえる歯科医師の超過剰状態は、長期にわたって慢性化しています。この先、総人口は減ってゆくので、患者の奪い合いはますます激化します。歯科医師の大幅削減も喫緊の課題です。

歯科医師削減に向け、歯学部の定員削減や、国家試験の合格率を下げるなど、事実上の足切りも行っていますが、歯科大や歯学部そのものを削減するには至っていません。さらに、歯科大や歯学部の一部には、定員割れの学校もあるというのに、学校経営にしがみついているのは理解できません。

歯学部を看護学部へ

そこで、筆者は歯科医師過剰と看護師不足を解決する策を提案します。定員割れや国家試験合格率の低い歯科大、歯学部を中心に、相当数を看護大学、看護学部に変えるのです。看護師不足が深刻な関東には歯科大、歯学部が偏在していますので、その点でも効果が期待できます。

歯科医師国家試験の合格率は平均60%台で推移していますが、既存の歯科大、歯学部のなかには、合格率のかなり低いところがあります。さらに、歯科医師国家試験には公表される合格率以外に、隠れ合格率(事実上の合格率)があり、国家試験に合格できそうもない学生は受験させず、

恣意的に表面上の合格率を上げるという操作が行われています。受験資格のある者の数と実際の合格者の割合をみる隠れ合格率が40%にも満たない学校が数校あり、最低は20%と、もはや歯科医師養成機関としての体をなしていません。

一方、看護大学の看護師国家試験の90%前後で推移しており、どの学校も看護師養成機関として機能しています。

歯科大、歯学部から看護学部への移行が有利なのは、歯学教育は歯に関することだけでなく、解剖学、組織学、生理学、生化学、病理学、細菌学、免疫学、薬理学といった看護学にも共通する内容を含む基礎系科目に加え、内科学、外科学、耳鼻咽喉科学などの隣接医学がすでにカリキュラムにあるので、看護学への移行もゼロから始めるよりはるかに有利です。

建物や設備もリニューアルで対応できるので、新設と比較にならないほど低い経費で済みます。定員割れもある歯学部に比べ、看護学部は 10年間で定員が倍増したにもかかわらず志望者数は3倍に増え、定員割れは起こしていません。看護師不足は今後も続くので、市場のニーズも途切れることはなく、就職も保証されます。

過当競争で生き残りに四苦八苦している歯科界に若い歯科医を送り出すよりも、ニーズの絶えない市場に看護師を送り出すほうが社会貢献にもなるので、教育者としてのやりがいもあり、学校経営の観点からもずっと良いでしょう。

幸い、獣医学部と違って看護学部の新設は難しくないようで、医療系以外の大学でも看護学部の新設は急増しています。生き残りの難しい歯科大、歯学部は医療教育では一日の長があるのですから、一刻も早く看護学部への移行を決断するべきです。

林晋哉/歯科医師

林歯科・
https://www.exajp.com/hayashi/


にほんブログ村 病気ブログ 歯科医へ
↑↑歯科医療情報ブログ・ランキングに参加しています。よろしければ応援クリックをお願いします。


誤った歯科治療で頭髪がごっそり抜け巨大な円形脱毛症…入れ歯不調で虫歯や歯周病の危険

第18回 誤った歯科治療で頭髪がごっそり抜け巨大な円形脱毛症…入れ歯不調で虫歯や歯周病の危険 文=林晋哉/歯科医師

円形脱毛症は、頭髪の一部が円形に抜けることが主な症状で、原因は精神的なストレス、ホルモン異常、遺伝、自己免疫疾患などが挙げられています。頭髪だけではなく全身の体毛に及ぶこともあるそうです。

歯とは関係のない疾患に思われますが、噛み合わせの不調で大きな円形脱毛症になってしまった症例を体験しました。

 患者は私の父親で当時64歳でした。右側頭部の頭髪がごっそり抜けてしまったのです。その時の父の歯の状態は上が総入れ歯、下が前歯だけが残っている部分入れ歯を入れていました。特に不自由なく使っていたのですが、噛み合わせと全身の勉強を始めたばかりの頃で、より良い入れ歯にしようと、親孝行のつもりでつくり替えることにしたのです。

新しい基準でつくった上下の入れ歯は、微調整を繰り返しながら、うまく機能し始めたため、定期検診に移行しました。
 しかし、数カ月ぶりの検診に訪れた父は頭も口の中も別人になってしまっていました。写真のように右の側頭部の頭髪がごっそり抜け、数本残っていた下の前歯は虫歯と歯周病でボロボロになっていました。

右の側頭部広範囲の円形脱毛

父によると、新調した下の入れ歯のバネがきつくて痛いので、浮かし気味にして使っていたそうです。それではうまく噛めるはずもないのですが、だましだまし使っていたそうです。

 また、まさか入れ歯の不具合と円形脱毛症が関係しているとは思いもせず、毛が抜け始める前から頭が寒くて毛糸の帽子をかぶって寝ていたそうです。

来院した父の姿を見て、私は愕然としました。円形脱毛症はうまく噛めなくなった入れ歯のせいだとすぐに気づいたからです。

新調した下の部分入れ歯は外れにくくするために、ガッチリとバネの効いたつくりにしていたのが裏目に出て、残っていた歯をだめにし、上下でうまく噛めない状態を強いてしまっていたのです。歯も歯茎も痛かったでしょう。我慢強い父は次の検診までごまかしながらお粥などを啜ってしのいでいたそうです。【続きを読む】

林歯科・
httpss://www.exajp.com/hayashi/


にほんブログ村 病気ブログ 歯科医へ
↑↑歯科医療情報ブログ・ランキングに参加しています。よろしければ応援クリックをお願いします。