入れ歯の形をしたもの – 保険制度の重大な欠陥(2)

「入れ歯の保険点数が低い」ということも、現在の制度の問題点です。保険診療をしている歯科医の場合、患者さんに満足してもらえる入れ歯を作ろうとすれば、赤字になるケースがほとんどなのです。

保険診療で総入れ歯を作ると、歯科医の手許には約6万円が入ります。ここから材料費を差し引き、技工士への報酬(約2万5千円)を差し引き、自分が使った労力・時間を差し引くと、「割の合わない仕事」になってしまう。

赤字にならないようにするために、歯科医はまず技工士への報酬を安くします。そして、自分の手間と時間をなるべく省く。

技工士にしても、手間隙をかけないようにするのは同じです。かつてNHKの番組内で「今の報酬では“入れ歯の形をしたもの”を作るのが精一杯」とある歯科技工士が語っていました。歯科医から支払われる報酬が安くなれば安くなるほど、時間と労力を省くようになる。こうして作られた“入れ歯の形をしたもの”が使えないのは、けっして不思議ではないでしょう。

保険制度の重大な欠陥(1)

悪いことに、現在の保険制度では入れ歯をいったん作れば、たとえそれが使えない入れ歯でも、歯科医や技工士は報酬を受けとれるのです。

もちろん無限に作れるわけではなく、一人の患者さんに対しては半年間に一度しか入れ歯を作れないことになっています。しかし逆に言えば、半年ごとに新しい入れ歯を作れる。

こんなことは、入れ歯以外では考えられないのではないでしょうか。たとえば車なら、走らない車を作るメーカーはありません。もしあったら、クレームが殺到するはずですし、車の代金は顧客に返還されるはずです。それを契機にそのメーカーが倒産してしまっても不思議ではありません。

半年で新たに作れるのなら、きちんとした入れ歯を作ろうとする歯科医は減ります。丁寧に作っても、雑に作っても、報酬は同じなのですから、雑な仕事をする人が増えるのは当然でしょう。実際、雑な仕事をしている歯科医や技工士はたくさんいます。

使えない入れ歯が量産されれば、益々保険点数は上がらない。患者不在の悪循環に陥っています。

林歯科/

ワールドカップと噛み合わせ

ワールドカップを戦った戦士達が帰国しました。

ひとり、ひとりの記者会見を見ていてびっくりしました。主力選手の多くが、噛み合わせが受け口ぎみなのです。(大久保選手、本田選手、闘莉王選手、川島選手、駒野選手、長谷部選手など)

サッカーだけでなくプロスポーツ選手には受け口ぎみ(切端咬合または反対咬合、中には部分的な交差咬合)が多いのですが、今回の日本代表は効率です。

その因果関係は不明ですが、研究者に取り組んで頂きたいテーマです。きっと面白い答えがあるように思います。この先スポーツ選手のインタビューを見る機会があったら、その噛み合わせに注目して下さい。

林歯科

噛み合わせの様式

総入れ歯を作るときの噛み合わせの様式は、ひとつではありません。代表的なものだけでも、五つくらいあります。これでは、どうやって入れ歯を作ればいいのか、まったくわかりません。

学生時代、このことに疑問を持って教授に質問をしたことがあります。そのときの答えは「個人差があるから、その人に合った方法を選択する」というものでした。では、どうやって患者さんにベストの方法を選択すればいいのか。さらに質問をしてみると、「さまざまな項目を分析して、総合的に適性を判断する」という答えが返ってきました。

どのように総合し、どのように分析するか、その質問には答えてもらえませんでした。要するに、「いろいろな基準があるから、いろいろと試してみなさい」ということですが、それで個々の患者さんに合った入れ歯が作れるかと考えると、おおいに疑問です。

林裕之

教えられたとおりに入れ歯を作ると、判断不能に陥る

歯というのは長く使っているうちに磨り減るし、傾いてくるのが普通です。歯茎も年とともに退縮します。入れ歯を使うような年齢になれば、若い頃とは違った噛み合わせになるわけです。したがって、残っている歯を基準にして噛み合わせを設定しても、それが正しいとは限りません。

しかも、総入れ歯の噛み合わせは「最後まで残っていた歯」を基準にしていません。総入れ歯には総入れ歯の独自の基準があって、それをもとに噛み合わせを設定します。つまり、最後の1本が抜けるまでは「残っている歯」を基準にして部分入れ歯を作り、その「残っている歯」が抜けると、新しい基準をもとに総入れ歯を作るのです。

 これは大きな矛盾と言えるでしょう。たとえば歯が一1,2本しか残っていないとき、それを抜いて総入れ歯を作るケースはよくあります。そのとき、噛み合わせの基準を「最後まで残っていた歯」にすればいいのか、「総入れ歯の基準」にすればいいのか。歯学部や技工学校で教えられている方法で作ろうとすれば、判断不能に陥ります。

林裕之