Business Journal「目からウロコの歯の話」 文=林晋哉
第36回 「平均的日本人、70歳超で10本の歯を失っている!健康寿命を延ばすカギは入れ歯?
前回記事『日本の生産人口減少問題、カギは歯?口腔環境の改善で健康寿命が劇的に延びる?』にて、これからの日本の生産人口と税収の減少による日本の衰弱を避けるため、多くの国民が80歳前後までしっかり働ける健康状態を維持することが必要であり、その実現の鍵となるのは「口の健康」なのだと説明しました。今回は具体的に、どうすれば「口の健康」によって不健康期間を縮め、長く働けるのかについてお話しします。
口が健康であるとは、どういう状態なのか。それは、質の良い咀嚼ができる状態です。具体的には、両奥歯でしっかり咀嚼のできる口腔状況であることです。
なぜなら、咀嚼回数と質の充実は、脳の活性化をはじめ、肥満予防、糖尿の予防と改善、腸内環境の改善、脳内ホルモンの分泌向上、がんの抑制など多岐にわたり全身の健康に好影響を与えることがわかっているからです。【Business Journalで続きを読む】
第35回 「日本の生産人口減少問題、カギは歯?口腔環境の改善で健康寿命が劇的に延びる?
今回は拙著『歯・口・咀嚼の健康医学』(さくら舎)をもとに、日本の未来についてお話しさせていただきます。現在、日本の出生率は減少の一途をたどっており、すでに未曽有の高齢化社会に突入しています。
また、日本の人口ピラミッド図(総務省統計局・2021年10月1日現在)を見れば、この傾向はますます顕著となり、生産人口は明らかに減少していくことがわかっています。つまり近い将来、日本の国体を維持するための人とお金が明らかに不足していくことを示しており、2040年には高齢者のさらなる増加と生産人口の減少が同時に起こるとされています(2040年問題)。
この動向は、すでにサービス業のみならず、さまざまな職種において深刻な人手不足を招いていることからもわかります。これを根本的に解消するためには、出生率が上がらなければなりませんが、現実的に難しいのが現状です。そこで実際に効果的なのは、外国労働者の受け入れを大幅増やすことでしょう。しかし、日本の風土や文化的風潮、また最近の円安傾向からみると速やかな受け入れはとても望めそうにありませんし、それができていればここまでの人手不足とはなっていないでしょう。【Business Journalで続きを読む】
第34回 「不健康期間」は口の機能低下から始まる!入れ歯でも大丈夫
6月4日は虫歯予防デーです。今回も、拙著『歯・口・咀しゃくの健康医学』から、人生100年時代の「口の健康」と「咀嚼の効用」についてお話しします。“死ぬまで元気”が万人の願いでしょう。筆者の考える理想的な終末は、身体は弱っても排泄、入浴、食事など身の回りのことが自分ででき、本を読み、音楽を楽しみ、しっかりと会話のできる生活です。
そして体調が崩れ、寿命が迫ったならば、数カ月であの世に旅立てればいいなと思います。この「数カ月」というのは、家族を含めた近しい人たちに大きな負担をかけず、かつ別れを告げるのにちょうど良い期間だと思うからです。つまり、死に至る前の不健康期間が数カ月という終末が理想です。
現在、日本の平均寿命は、女性では90歳に届こうというところまで延びています。しかし、寿命が尽きる前の約10年間は「不健康期間」といわれ、程度の差はありますが、介護なしの自立した生活ができない期間です。残念ながら、いくら平均寿命は延びても、この期間は縮まっていません。【Business Journalで続きを読む】
第33回 歯周病が全身に与える驚愕の影響…がん、糖尿病、認知症にも深く関係との研究結果
今回も、拙著『歯・口・咀しゃくの健康医学』から、驚きの「歯周病と全身疾患との関係」についてお話しします。歯周病は人類史上、もっとも感染者数の多い感染症とされ、ギネス・ワールド・レコーズに載っているほどで、世界中に最も広く知れ渡った病名です。
しかし一般の方に「歯周病はどのような病気なのか」とのアンケートを行ってみると、ほとんどの方が「歯と歯ぐきの病気」と答え、「歯ぐきと、歯を支える骨の病気」と正しく答えられる人の割合は、およそ1割強という結果があります。
歯周病は歯の病気ではなく、歯茎の病気なのです。そしてまた、歯周病をわかりづらくしているのは、「歯肉炎」と「歯周炎」の2つを合わせて「歯周病」としていることです。
実は、この2つには大きな違いがあります。歯肉炎は歯を支える骨にはダメージを与えない炎症ですが、歯周炎は歯を支える骨を破壊し、最終的には歯が抜けてしまう炎症です。つまり、歯周病のなかで気を付けなければならないのは歯周炎ということになります。具体的にいえば、歯周炎は深いポケットが出来、歯茎が赤くただれ膿が出るような状態です。【Business Journalで続きを読む】
第32回 咀嚼を改善したら要介護4→2へ下がった!咀嚼でがんを予防、健康寿命を延ばす
口は大変面白く、同時に不思議な器官です。物を食べるだけではなく、攻撃をしたり、物を掴んだり、キスをしたりと、身体のなかでこれほど多目的な器官は、ほかにありません。
また、食べることだけを見ても、おかず、ごはん、みそ汁と、たくさんの食べ物を口いっぱいに放り込み、もぐもぐと咀嚼し、その中から食べ物に混じった髪の毛一本をより分けて出す。
これこそが口の行う“神業”です。現代の科学の粋を集めたロボットでも、このような振る舞いはできません。これほど口は凄い器官なのです。
カナダの脳神経外科医のペンフィールド医師が、脳と全身とのつながりを研究しました。この研究から、口と手がもっとも脳とつながる神経の数が多いということがわかっています。
ですから、口と手は、小さなことを敏感に感じると同時に、細かな運動もできるのです。口いっぱいの食べ物の中から髪の毛1本をより分けて出せるのも、これが理由です。【Business Journalで続きを読む】
第31回 虫歯や歯周病の“本当の原因”…歯磨きだけでは予防は困難、より効果的な予防法とは
6月4日は「虫歯予防デー」です。同日から10日までの1週間を「歯と口の健康週間」として、歯科医師会を中心にさまざまなキャンペーンが行われています。この活動の歴史は古く、93年前の1928(昭和3)年に始まりました。
しかし、百年一日のごとく歯磨きで虫歯を予防しましょうという啓蒙活動ですが、虫歯や歯周病の根絶など顕著な効果はないままです。
そもそも、虫歯も歯周病も病気ですから、その原因は一つではありません。それなのに、虫歯の原因は虫歯菌、歯周病の原因は歯周病菌で、それらを取り除く歯磨きが唯一の予防法とされてしまっています。
筆者は、磨くだけで虫歯や歯周病の予防ができるとは思っていません。むしろ歯磨き信仰ともいえる歯磨き絶対主義が「虫歯になったのは磨かないあなたのせい」という間違った自己責任論を生み出しています。【Business Journalで続きを読む】
第30回 子どもに「コロナうつ」が蔓延…ガムで予防できる可能性、咀嚼しない現代人のリスク
新型コロナウイルスの感染拡大によって生活様式の変化を余儀なくされてから、1年が過ぎました。通勤や通学が減り、在宅時間が長い巣ごもり生活や、営業自粛や消費低迷などで経済状態も悪化し失業者が増えるなど、心身の健康に与える深刻な影響も顕著になってきました。
ある調査では、小学生の15%、中学生の24%、高校生の30%に中等度以上のうつ症状があると報告されているので、早急な対策が必要です(子どもの「コロナうつ」深刻 高校生の3割に症状―成育医療研)。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021021600113&g=soc
見直したい噛む効用
どんな状況でも、健康の基本は食にあります。コロナ渦のストレス解消であっても、好きなものばかり食べていては栄養が偏ってしまいます。栄養バランスの良い食事を心がけなければなりませんが、食生活の健康への影響で見落とされているのが、その食べ方です。ここでいう食べ方とは「噛み方」のことです。【Business Journalで続きを読む】
第29回 「歯の色、歯並び、噛み合わせ」の治療はリスクだらけ…思わぬ副作用に苦しむ人が続出
新型コロナウイルスの感染を恐れた“通院自粛”のため、一般外来の受診率は低下しています。過度の通院自粛は、病状の悪化を招くなどの問題がある一方で、いわゆる不要不急の診察や診療を見直す機会ともなりました。
歯科も例外ではありませんが、筆者はコロナ渦以前から、歯科には不要不急の治療がまかり通っていると懸念を抱いていました。主に「審美歯科」と呼ばれる治療分野に多いのですが、不要不急の歯科治療が多い原因は、一般的には常識のように思われていますが、実は間違った歯に対する思い込みがあると思っています。間違った思い込みとは、「歯の色」「歯並び」「噛み合わせ」の3つです。【Business Journalで続きを読む】
第28回 「自宅で歯列矯正」は絶対にやってはいけない…噛み合わせが悪化、全身に悪影響
新型コロナウイルスの感染拡大防止として、外出自粛が要請されました。在宅勤務の奨励や小売業の営業自粛で、多くの人が自宅で過ごす時間が長くなりました。こうした在宅率の高さに目をつけたかのように、手軽に歯並び矯正ができると謳った「自宅で矯正」の広告が目につくようになりました。“LINEを使った歯科矯正サービス”や、“月3万円で通院なし”といった謳い文句で、何社かがインターネット上で展開しています。
いずれも歯並びが気になる人を「自宅で手軽、低価格、短期間」という魅惑的な言葉でその気にさせて集客し、矯正医と結びつけるビジネスモデルで、医療とは程遠い新手の集客業です。この「手軽、低価格、短期」の矯正法は、透明のマウスピースを使って行います。ワイヤーで固定する方法ではなく、自分で着脱できるので「自宅で矯正」が可能というわけです。【Business Journalで続きを読む】
第27回 新型コロナ、「口の状態」が悪いと重症化しやすい?歯周病対策+“使える入れ歯”→軽症化
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、健康被害にとどまらず、感染拡大を予防するためにコンサートやスポーツなど各種イベントの中止、旅行、宴会、会食などの自粛による経済活動の停滞を生じ、さらに安倍晋三首相の唐突とも思える全国すべての公立校の臨時休業の要請など、社会に混乱を招いています。
こうした過度とも思える対策を取らざるを得ない要因は、新型コロナウイルスに感染し、発症した場合の決定的な治療法や、発症を未然に防ぐワクチンが現時点ではないことだと考えられます。しかし、時間の経過とともに新型コロナウイルスの実態も報告されるようになってきました。
WHO(世界保健機関)は2月20日までに、中国で感染が確認された5万5924人のデータについて分析した結果を、以下のように発表しました。
・感染から発症までは、平均で5日から6日。
・感染者のおよそ80%は症状が比較的軽く、肺炎の症状がみられない場合もある。
・呼吸困難などを伴う重症患者は全体の13.8%。
・呼吸器の不全や敗血症、多臓器不全など命にかかわる重篤な症状の患者は6.1%
・重症や死亡のリスクが高いのは、60歳を超えた人や高血圧や糖尿病、循環器や慢性の呼吸器の病気、がんなどの持病のある人。
・全体の致死率は3.8%(5万5924人の感染者のうち死亡したのは2114人)
・80歳を超えた感染者の致死率は21.9%
新型コロナウイルスがインフルエンザなどと違うもうひとつの特徴として、子どもの感染例が少なく症状も比較的軽いということ。19歳未満の感染者は全体の2.4%で、重症化する人はごくわずかとも報告されています。【続きを読む】
第26回 寝たきり高齢者が“使える入れ歯”にしたら歩けるようになった!健康寿命伸長&認知症予防のカギは歯
「人生100年時代」という言葉がよく使われるようになってきました。実際に日本人の平均寿命は伸び続けており、女性の平均寿命は84.17歳(2016年)となっています。政府では、2007年に日本で生まれた子供については、107歳まで生きる確率が50%もあるとする研究結果などを踏まえて「人生100年時代構想会議」を立ち上げて、超長寿社会に対応できる政策のグランドデザインを検討しています(人生100年時代構想会議)。
この背景にあるのは、高齢者に使われる社会保障費の増大と、少子化による財源の縮小にほかなりません。2017年の国民医療費は43兆710億円で、そのうち65歳以上の高齢者にかかった医療費は25兆9515億円と全体の60.3%を占めています。平均寿命が延びればそれだけ高齢者人口は増えるので、医療費もその分増加します。【続きを読む】
第25回 歯医者さんの「麻酔」の怖い話と注意点…2歳女児死亡、なぜ歯科医は救急救命を怠ったのか?
福岡県警は、2017年に福岡市の歯科医院でむし歯治療中に起きた2歳女児死亡事故で、元院長の男性を業務上過失致死の疑いで書類送検しました。亡くなった女児の死因は、司法解剖の結果、治療で使用した局所麻酔薬リドカインの急性中毒による低酸素脳症とみられています。
事故が起きた当初は、局所麻酔薬の投与量の誤りも疑われましたが、警察のその後の調べで、投与量など麻酔薬の使用については過失を認めていないものの、急変後の対応が不適切だったと判断し、業務上過失致死の疑いで立件する方針です。
むし歯や歯周病治療、親知らずの抜歯など歯科治療を受けたことのある人ならば、麻酔をされた経験があると思います。歯科治療での麻酔薬の安全性は確立されているので、麻酔使用はごく一般的となっており、麻酔がなければ歯科治療は成り立ちません。したがって、麻酔薬で死に至ることは極めてまれです。【続きを読む】
第24回 歯列矯正はやるべきか?矯正後に頭痛や視力低下、不眠で苦しむ人も
世界的人気ロックバンド「QUEEN(クイーン)」のボーカル、フレディ・マーキュリーを描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』(20世紀フォックス映画)は、11月9日に公開されてから1カ月を過ぎても観客動員は右肩上がりで、世代を超えた幅広い支持を得ています。クイーンの楽曲『ウィ・ウィル・ロック・ユー』『伝説のチャンピオン』『ボヘミアン・ラプソディ』などは、世界中で愛され誰もが知っている名曲です。筆者もこれらの歌は大好きなのですが、クイーンやフレディについて詳しく知っているというわけではありませんでしたし、特に関心を持っているわけでもありませんでした。
しかし、あまりにもこの映画が高評価なので、先日、映画館に足を運んでみました。満員の観客のひとりになって見始めたのですが、すぐに馴染みのある楽曲に彩られたフレディとクイーンの物語に引き込まれ、まるでドキュメンタリーを観ているかのような完成度の高さに感動し、高評価にも納得しました。特に主人公のフレディを演じたラミ・マレックの演技は素晴らしく、まるで本人が乗り移ったかのような怪演で、アカデミー主演男優賞は彼が手にするのではないかと思うほどでした。
そのラミ・マレックの再現性の高さで特筆したいのは、彼の口元です。【続きを読む】
第23回 日本人の「噛む力」の弱まり、深刻な健康被害の恐れ…IQ低下や認知症リスク増大
食べ物をひと口食べたタレントが、さもおいしそうに「柔らか~い!」と発した後、2~3回だけ噛んで飲み込んでしまう――。グルメ番組でよく観るシーンです。本来「柔らかい」は食感のことで、味覚ではありませんが、“柔らかい=おいしい”はすっかり定着してしました。しかも悪いことに、柔らかい食べ物はよく噛みません。
食べ物に柔らかさを求めるようになった始まりは、30年ほど前のことです。1980年代に噛めない子供が増えてきたと、幼稚園の現場や専門家からの指摘が相次ぎ、マスメディアでも取り上げられ、一時社会問題になったことがありました。ところが、その解決法は食品の軟食化でした。子供の好むお菓子メーカーをはじめ、食品会社や外食産業も柔らかさに重点を置いた食品開発に力を注ぎました。噛む力を鍛える方法よりも、食べ物を柔らかくして噛まずに済ませるほうへ進んでしまったのです。
噛む力が弱くなると、さまざまな弊害が生じます。噛む筋肉や顎の骨が十分発達せず、歯並びの乱れや顎関節症の原因になります。弊害は口だけではありません。視力低下もそのひとつで、5歳児を調査したところ、咬合力が1キログラムにも満たない子供が「硬い」と感じた食べ物は、なんと「ほうれん草」でした。この子が中学生になった時の視力は0.2。一方、5歳の時に咬合力が47キログラムだった子供が中学生になった時の視力は1.5だったという調査結果が報告されています。このほかにも、よく噛まない子供はIQの低下につながるという実験結果も報告されています。【続きを読む】
第22回 歯科治療で死亡事故発生…意外に恐ろしい麻酔とデンタルショックの話
2月20日に、歯科治療が原因とされる死亡事故の報道がありました。昨年7月に虫歯治療を受けた2歳女児が死亡したというもので、痛ましい結果に言葉もありません。
記事からは、治療した歯の部位や症状、治療手順、容体急変後の対処などの情報が得られませんので、正確に検証することはできませんが、重大な結果は歯科医として他人事ではないですし、記事中のいくつかのキーワードを基に考察することで、治療者、受診者双方にとって再発防止の一助になれればと思います。
記事中の「キーワード」で報道を整理すると、以下のようになります。
・亡くなったのは「2歳女児」
・治療は子どもの治療を専門とする「小児歯科医院」
・使われたとされる麻酔薬は、歯科治療は元より一般医科でも局所麻酔剤として世界中でもっとも使われる「リドカインを成分とする麻酔薬(商品名:キシロカインなど)」
・亡くなったのは治療の2日後
そして警察による司法解剖の結果、死因は「急性リドカイン中毒による低酸素脳症」とみられ、業務上過失致死の疑いも視野に捜査されているようです。
前提として、歯科治療中、または歯科治療が原因とされる死亡事故は極めてまれですが、結果が重大なので必ず報道され、記憶に残ります。過去には、「歯科治療用のフッ化ナトリウム(NaF)と間違えて、毒物のフッ化水素酸(HF)を女児の歯に塗布してしまい死亡(1982年)」や、「抜去した歯を口の中に落としてしまい、その歯が器官に詰まった窒息死(86年)」、今回と同じように「麻酔後に4歳の女児が死亡した事故(2002年)」などが起こっています。
また、インプラント手術中に動脈を傷つけたことによる死亡事故などが挙げられ・・・【続きを読む】
第21回 インプラント危害、国が警告…治療中に死亡事故も「入れ歯=悪」のまやかし
歯学部を卒業と同時に、「噛み合わせと全身」の勉強を始め、10年後の1998年に『いい歯医者、悪い歯医者-噛み合わせが狂えば、命も危ない』(クレスト社)を著しました。
「一本の歯が人生を狂わせる」をテーマに、かみ合わせと全身の関わりや、安易に歯を削ったり、歯列矯正で歯を動かすことの怖さ、勉強不足の歯科医や歯科技工士の多い歯科業界の問題点などを訴えました。
「かみ合わせが悪いと頭痛肩こりなどの原因になる」ことは今では多くの人が知っていますが、20年前は歯科医でさえも知らない時代でしたので、この本は話題になり新聞やテレビなどでも取り上げられ、多くの人に読んでいただきました。この本の出版から、来年で20年になります。『入れ歯になった歯医者が語る「体験的入れ歯論」-あなたもいつか歯を失う:Kindle版』(林晋哉パブフル)
20年の節目としてこのたび、『入れ歯になった歯医者が語る「体験的入れ歯論」-あなたもいつか歯を失う:Kindle版』(パブフル)が 発行されました。そこで今回、この20年で歯科の世界はどのような変化があったのか、簡単に振り返ります。
まず挙げられるのは、子どもの虫歯が減ったことです。「どうせ生え変わるのだから」と粗末に扱われていた乳歯への意識が変わり、乳児・幼児のうちから歯磨きや早めの受診、フッ素塗布などが功を奏したのでしょうか。噛み合わせと全身の関連が一般常識となったことは前述の通りで、「顎関節症」という病名も聞きなれない言葉ではなくなりました。
インプラント(人工歯根)の登場も目立った出来事です。1980年代に出始め、2000年代に入って急速に広まりました。高齢化が進み入れ歯年齢層が厚くなり、歯科医も需要を見込んでこぞって導入しました。歯科医師過剰にあって、保険外で収入の見込める新技術に多くの歯科医が飛びついたのです。しかし、にわかインプラント医の急増は技術の未熟さや、過当競争のあおりでトラブルも多く、独立行政法人 国民生活センターが「インプラント危害」という強い言葉を使って警告を発する事態となりました。【続きを読む】
第20回 若くして入れ歯、うつになる人も…「入れ歯=悪い」は完全に間違い!十分な咀嚼で全身健康
ある新聞の相談コーナーに、入れ歯に関する2つのショッキングな相談が載っていました。
(1)29歳、1児の母である女性
「若くして入れ歯になり、うつ状態になってしまい困っている」と訴え、良いアドバイスを求めているのですが、その文には自分を攻める文言が並びます。
「入れ歯のママ・嫁なんて家族に申し訳ない」
「どうしてもっと歯を大事にしなかったのか」
「入れ歯で営業の仕事なんてできるのか」
「これから会食など、どうなるのか」
「入れ歯を入れて顔がどう変わってしまうのか」
「友人や同僚にどう思われるのだろう」
入れ歯になったことで、こうした思いにとらわれて何も手につかず、うつ状態に陥ってしまったのだそうです。
(2)30代男性
この方も、やはり「入れ歯になって落ち込み、立ち直れない」と訴えています。「ブリッジが土台ごとだめになり、インプラントも適用不可で、入れ歯になり落ち込んでいる。どうにか仕事はしているが、気持ちは暗くなる一方」この2人に共通するのは、入れ歯に対する負の感情がとても強いことです。世間一般の風潮や年齢を考えれば致し方のないことかもしれませんし、私も歯科医療に無縁の素人だったら、若くして入れ歯という事実をすんなり受け入れることは困難だったかもしれません。
しかし、どんな年齢でも、どんなに嫌だとしても、歯がない状態のままでいるよりも、入れ歯を入れて上下の歯を28本に揃えてきちんと咀嚼できる状態を維持することが全身の健康につながります。【続きを読む】
第19回 異常な歯科医余剰で患者奪い合い、深刻な看護師不足…全国の歯学部を看護学部に移行すべき
安倍晋三首相への“忖度”が話題になるなど、内閣支持率を急落させるきっかけとなった「加計学園問題」も、“きな臭さ”は残るもののだいぶ下火になってきましたが、この問題で明らかになったことのひとつに、「獣医師の適正数(需給問題)」がありました。
日本獣医師会によると、獣医師の総数に過不足はないものの、ペットなどの治療をする、いわゆる動物病院の獣医師は多く、酪農や養豚、養鶏など産業動物診療分野に従事する獣医師が少ないという獣医師の職域偏在が明らかにされました。【続きを読む】
第18回 誤った歯科治療で頭髪がごっそり抜け巨大な円形脱毛症…入れ歯不調で虫歯や歯周病の危険
円形脱毛症は、頭髪の一部が円形に抜けることが主な症状で、原因は精神的なストレス、ホルモン異常、遺伝、自己免疫疾患などが挙げられています。頭髪だけではなく全身の体毛に及ぶこともあるそうです。
歯とは関係のない疾患に思われますが、噛み合わせの不調で大きな円形脱毛症になってしまった症例を体験しました。
患者は私の父親で当時64歳でした。右側頭部の頭髪がごっそり抜けてしまったのです。その時の父の歯の状態は上が総入れ歯、下が前歯だけが残っている部分入れ歯を入れていました。特に不自由なく使っていたのですが、噛み合わせと全身の勉強を始めたばかりの頃で、より良い入れ歯にしようと、親孝行のつもりでつくり替えることにしたのです。【続きを読む】
第17回 2歯列矯正やマウスピース矯正で「噛み合わせ」がメチャクチャ…物が噛めなくなる事例多発
筆者のクリニックに、成人矯正後の不具合を訴える初診の患者さんが来ました。主訴は、「奥歯が当たらず物が噛めない。顎をどこにやったらいいかわからない」といった症状です。歯列矯正という歯科治療を受けた結果として、物が噛めなくなったのです。口の健康に寄与するための歯科医療としては、決してあってはならない出来事です。
もし、自分の口が、噛んでも奥歯が当たらない噛み合わせだったとしたら、と想像してみると、恐ろしいかぎりです。
歯並びと噛み合わせ
多くの人は、「歯並び」と「噛み合わせ」を混同して捉えているようです。つまり、「歯並びが良ければ、噛み合わせも良い」と思われているようですが、歯並びと噛み合わせはまったく別のものです。歯並びは「歯の並び具合」、噛み合わせは「上下の歯の接触の状態」です。したがって、上の歯の1本が引っ込んでいたら、噛み合う相手の下の歯も引っ込んでいてしっかり噛み合っており、顎を動かしたときに引っ掛かるなどの邪魔になっていなければ、噛み合わせ的には問題ありません。ただ歯並びが悪いだけです。【続きを読む】
第16回 歯科医の間違った治療で歯を失う危険蔓延!安直なブリッジで歯がまとめて抜け落ち
歯にも平均寿命があります。かなり個人差が大きいのですが、一番短いのは6歳ごろ生える奥歯の第一大臼歯です。45歳を超えたあたりから、歯周病などで失うことが増えてきます。歯を失ってしまった場合は、その部分をそのままにせず、入れ歯やブリッジなどで補うことになるのですが、両隣の歯を削って被せる、高リスクのブリッジが主流です。
ほとんどの歯科医は、無条件でブリッジを選択し、患者さんにも当然のように説明し、装着しています。写真は、他院で治療したケースですが、歯根ごと抜けてしまったブリッジです。左上の第二小臼歯をなんらかの原因(おそらく歯周病)で失い、その部分を4本のブリッジで補っています。通常は3本で済むところ、1本増やして4本ブリッジにした理由は不明ですが、3本より4本のほうが治療代はかかります。これは自費のブリッジなので、30~50万円はしたと思われます。【続きを読む】
第15回 歯が抜け落ちる…歯周炎、「歯磨きで防げる」のまやかし、新事実浮上
11月8日は「いい歯の日」でした。テレビニュースのトピックスなどでも紹介され、特に歯周病ケアに重点が置かれる内容が多く見受けられました。
歯周病は日本人成人の8割以上が罹患しており、世界中の疾患のなかでもっとも罹患率が高いといわれています。しかし、テレビ番組で紹介される歯周病ケアの内容は、相も変わらず「磨け、磨け」のオンパレードで、磨けば完全に歯周病を予防できるかのようなものでした。【続きを読む】
第14回 日本人の「噛む力」の弱まり、深刻な健康被害の恐れ…IQ低下や認知症リスク増大
食べ物をひと口食べたタレントが、さもおいしそうに「柔らか~い!」と発した後、2~3回だけ噛んで飲み込んでしまう――。グルメ番組でよく観るシーンです。本来「柔らかい」は食感のことで、味覚ではありませんが、“柔らかい=おいしい”はすっかり定着してしました。しかも悪いことに、柔らかい食べ物はよく噛みません。
食べ物に柔らかさを求めるようになった始まりは、30年ほど前のことです。1980年代に噛めない子供が増えてきたと、幼稚園の現場や専門家からの指摘が相次ぎ、マスメディアでも取り上げられ、一時社会問題になったことがありました。ところが、その解決法は食品の軟食化でした。子供の好むお菓子メーカーをはじめ、食品会社や外食産業も柔らかさに重点を置いた食品開発に力を注ぎました。噛む力を鍛える方法よりも、食べ物を柔らかくして噛まずに済ませるほうへ進んでしまったのです。・・ 【続きを読む】
第13回 入れ歯はこんなに素晴らしい!粗悪品蔓延で要注意、インプラントより衛生的?
歯にも耐用年数、つまり寿命があります。長生きをすれば、どんなに磨いていても結果的には一本ずつ失っていくものです。 厚生労働省による「平成23年歯科疾患実態調査」によれば、1人平均喪失歯数が40~44歳までで0.9本、45~49歳では1.5本になります。つまり45歳以降では日本人は平均すると歯が1本以上欠けているのが当たり前なのです。歯を失えば補わなければ・・ 【続きを読む】
第12回 歯の治療で慢性的な頭痛や目まいが治った!誤った治療や歯列矯正で、全身に深刻な危害も
身体の歪みが全身にさまざまな症状を引き起こすことは、よく知られています。身体の歪みは頭痛、首や肩の痛みやコリ・手足のしびれ・神経痛・腰痛などの原因となります。これは主に背骨の歪みやズレに起因するとされています。頭蓋骨からつながる、いわゆる背骨は頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙骨1個、尾骨1個、計26個の骨が積み木のように重なっているので、いろいろな動きができる半面、歪みも生じやすいのです。・・ 【続きを読む】
第11回 歯列矯正は超危険!全身に深刻な副作用のおそれ…食事や口の開閉が困難になる例も
歯にワイヤーを装着して歯並びを変える歯列矯正に副作用があることは、まだよく知られていません。筆者は、1998年に拙著『いい歯医者、悪い歯医者 - 噛み合わせが狂えば、命も危ない -』(クレスト社)の中で、歯列矯正による副作用の実例を報告しました。その後、読売新聞などで記事に取り上げられたこともあり、筆者の医院には歯列矯正の治療途中、治療後を問わず、さまざまな症状に苦しむ患者さんが訪れています。そのような方々が開業以来20年以上途切れたことはありません。・・ 【続きを読む】
第10回 歯の周りの組織破壊され歯が抜ける歯周炎…治癒&予防困難な場合も!
「歯周炎は細菌が原因ではなかった!」――そんなセンセーショナルな内容の論文が発表されました。これは奥羽大学薬学部教授の大島光宏氏らによる研究結果です。同氏は以前、筆者の母校の生化学教室に在籍されていました。
ある日、大学の後輩がフェイスブックに大島先生の「歯周炎薬物治療のパラダイムシフト」という論文を紹介していたので手に入れて読み、またすぐに機会を得て講演も聞いてきました。講演後も時間を取って十分に質疑に応じていただきました。論文も講演も久しぶりに琴線に触れる感動的なものでした。パラダイムシフトとは、「ある時代・集団を支配する考え方が、非連続的・劇的に変化すること。社会の規範や価値観が変わること」(デジタル大辞泉)とされています。・・ 【続きを読む】
第9回 香取慎吾の顔変形か 歯の異常放置が原因?抜け歯で顔のエラ膨張や完治困難の危険も
テレビや映画を観ていると、スターの口の中まで見えることがあります。前歯ばかりでなく奥歯の状態まで観察できれば、その人の噛み方や噛み癖がわかり、首や肩のこり、頭痛の有無なども推察できる場合があります。噛み方の偏りや噛み癖が顕著だと、顔の形に表れます。その典型例がSMAPの香取慎吾さんです。香取さんは『森田一義アワー 笑っていいとも!』(フジテレビ系)のレギュラーを1994年4月から番組終了の2014年3月まで務めたので、口の中が見える機会が継続的にあり、図らずも歯と顔の形の観察がテレビ画面越しに20年にわたってできたのです。・・ 【続きを読む】
第8回 歯科治療、間違いだらけだった!全身に重大な悪影響の危険
「歯科治療とは何か」「歯科治療は一体なんのために受けるのか」――そんなことを考えたことのある患者さんは誰もいないでしょう。では、一般医科ではどうでしょうか。内科、外科、産科、眼科、皮膚科など、沢山の科目がありますが、それらの治療は一体なんのために受けるのでしょうか。この質問に、大多数の皆さんは「病気を治すため」と答えるでしょう。そうです。本来、すべての科目はお互いに協力して疾病を治し、その人の全身の健康を回復するために存在しています。・・ 【続きを読む】
第7回 女優などの不気味に白すぎる人工歯は危険!1本17万円、深刻な体調不良を招くおそれ
筆者は職業柄、テレビを観ていてもタレントやスポーツ選手の歯やかみ合わせの具合を観察してしまいます。
数年前からとても気になっているのが、不自然に真っ白い人工の歯に替える人が増えていることです。元大リーガーの新庄剛志氏が初めてだったと記憶していますが、初めて目にした時は、よくこんな不自然な色の物を平気で入れていられるものだととても驚きました。最近では覚醒剤事件で逮捕された清原和博被告の異様に白い歯も印象に残っています。
自ら望んだ色なのか、歯科医にそそのかされたのかは知るよしもありませんが、いずれにしても天然の歯にはない異様な白さです。モデルや女優にもこの白い歯に替える人は増えつづけており、困った傾向だと憂慮しています。・・ 【続きを読む】
第6回 虫歯が肛門の不具合を引き起こす?
本連載では前回まで、全身の健康は口の健康が支え、その口の健康をつかさどる咀嚼システムの獲得において最も大切なのが、かみ合わせから脳にもたらされる感覚情報だということをみてきました。
「人間の祖先は?」という問いには、大多数の人が「猿」と答えるでしょう。では、「猿の祖先は?」と聞かれたらどうでしょう。始まりは単細胞生物ですが、祖先という意味合いからとらえれば、「魚」から本格的な進化の過程が始まったといえるのではないのでしょうか。簡単にまとめると次のようになります。
【単細胞生物→クラゲ類→魚類→両生類→爬虫類→哺乳類→類人猿→人間】
魚は、口、頭、目、えらが身体の先端に存在しており、そのなかでも身体サイズからすれば口はかなりの大きさを占めます。そのえら呼吸と捕食・摂食をするための口を働かせる一番重要な筋肉群がその先端部分の口・えらの周りに集中していました。その集中していた筋肉群は進化の過程を経て、現在の人間の体では全身に広く分布しています。・・ 【続きを読む】
第5回 病気や体調不良の原因は「歯」?歯と体と脳の怖すぎる関係
本連載では、前回記事まで、全身の健康は口の健康が支え、口が健康であるためには良好な咀嚼システムを獲得することが大事であり、それは哺乳期から始まるということを述べました。
咀嚼システムは成長段階に応じて学習・発達していくものです。3歳を過ぎて乳歯が生えそろうと、食べ物を噛み砕いたり、すりつぶすための歯という道具を使いこなせるようになり、しっかり咀嚼という行為ができるようになります。この頃から本格的な咀嚼システムの発達段階に入るといえるでしょう。・・ 【続きを読む】
第4回 母乳の神秘…赤ちゃんの脳に多様な「情報」を送っていた!ミルク育ちと発育に雲泥の差
自然界において、人間の赤ちゃんは「超早産」といわれています。脳(頭)が大きすぎるため、完全発育する前に出産しなければ産道を通ってこられないからです。したがって、ほかの動物たちと違って、生まれてすぐに放置すると死んでしまいます。対して馬や犬などは、自ら立ち上がって母親のおっぱいを飲みにいきます。
その人間の赤ちゃんが生まれた時点で唯一持っている能力が、吸啜(きゅうてつ)反射です。頬や唇に乳首が触れると、そちらを向いて乳首をくわえおっぱいを飲むという反射です。その行為がなされなければ生きてはいけません。つまり、摂食という生きるための情報は、口から初めて脳にもたらされます。・・ 【続きを読む】
第3回 モノを噛むという行為は、こんなにも奇跡的なものスゴイことだった!
10月21日付連載前回記事『病気や体調不良の原因はなんと「口」?』では、全身の健康は口の健康が支え、その口の健康に良くも悪くも大きく影響するのが、かみ合わせだと説明しました。では、口が健康であるとは、どういう状態を指すのでしょうか・・ 【続きを読む】
第2回 病気や体調不良の原因はなんと「口」?
本連載前回記事『肩こりや頭痛の原因は歯?体調不良の原因は「かみ合わせ」の悪さ?』では、かみ合わせの不調和が頭痛、肩こりなどの大きな要因となり、ひいては身体の健康の良し悪しに大きく影響することについて言及しました・・ 【続きを読む】
第1回 肩こりや頭痛の原因は歯?体調不良の原因は「かみ合わせ」の悪さ?
最近、電車内で耳にした、会社員とおぼしき女性同士の会話です。「このごろ肩がこったり、頭痛がするようになったのよね」「えー、歯のかみ合わせが悪いのかもよ!」このやりとりを聞いた時、かみ合わせがここまで一般常識になったのかと嬉しくなりました。筆者がかみ合わせを勉強し始めた25年以上前には、こんな会話は想像もできませんでした。当時は一般の人はもちろん、歯科医師ですら・・ 【続きを読む】