『画期的な判決』(1) | 実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その6)

2016年9月6日

我々原告側の予想を超えた判決がなされました。
 
インプラント治療をめぐる医療裁判は、その後やり取りは数度続き、その間に和解の検討もされました。その際の条件が被告が原告に和解金として雀の涙的な金額を示し、それを支払うかわりに、今後、被告歯科での原告の治療に関する一切の異議、紛争を起こさないこと及びこの事案を公開しないというものでした。原告の今回の賠償請求金額は130万円余りでした。しかしこの金額は裁判ではよくある多めの請求の性格はありましたし、このような訴訟内容(メインがカルテ開示請求であることで、しかも裁判途中で開示がなされている)ですから、当初から弁護士を含め我々原告側では、判決まで行ったら、すでにカルテは開示されているのだから裁判所的にはもう良いだろ的になり、まあ、金銭的には一銭も認められないだろうと予想していました。 
 
 被告側の弁護士達もそんな感じでタカをくくっていたというのが本当のところでしょう。なにせ途中から向こうの弁護士たちは職業的にはやっているが、力は注がれておらず、いい加減というか、流している感じでいました。つまり慰謝料が付くような判決にはなりようがないと舐めていたということでしょう。だからこそ、お金を少しくれてやるからもう黙れ的な和解条件が出てきたのでしょう。

 しかし、こちらも簡単に勝てるものとはハナから思っていないし、まずはカルテを押さえて徹底して分析すれば何か出てくるだろう。そして今度はそれを元に治療内容の不備や注意義務違反を根拠に別立ての損害賠償訴訟を起こし、そちちで賠償金を請求しようという流れを意識していました。
 
 ですので、本訴訟ではもう一円ももらえなくてもいいから判決まで行こうとなり、ついに裁判所の判断を受けました。

裁判所による判決。

平成2×年(ワ)第××××号 個人情報開示等請求事件

判決。

主文。
1、被告は、原告に対し、22万円及びこれに対する平成2×年O月O日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2、原告のその余の請求を棄却する。
3、訴訟費用は、これを13分し、その2を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
4、この判決は第1項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が原告に対し、16万円の担保を供するときは、その仮執行を免れることができる。

というものでした。その結果を聞いた時、全くそのような結果を予想していませんでしたので本当に驚きました。我々が予想していたのは、よくて数万円の慰謝料で、弁護士費用などはとてもじゃないけど認められないだろう。悪ければ、カルテは開示されているのだから金員的には全くのゼロだろうと思っていましたし、専門的な予想としてはこれが今までの常識的なラインでした。

それを表すエピソードとして、通常、判決の出る当日は、弁護士を含め当事者としては特別の日であり一刻も早く結果を知りたいと思うものですが、我々の担当弁護士はほとんどその結果に対して期待をしていませんでしたので、忙しいとはいえ、その判決の書面を取りに行くのを後回しにしていた程でした。しかし、結果は被告の主張をことごとく退け、原告の大勝利と言って良い上記のようなものでした。
 
この22万円の内訳は、20万円がカルテ開示を本訴訟まで不当に引き延ばしたことより被告歯科医師が原告に与えた精神的苦痛に対する慰謝料で、2万円が原告の弁護士費用の内の被告の負担分です。

 通常、裁判に於いて金員的に認められやすいのは、事実としての損害に対するもの、例えば交通事故による怪我の治療費とか物を壊した時の弁済費用などで、離婚裁判以外で慰謝料が日本の裁判で認められるのはかなり難しいでしょう。なぜならば、訴訟過程においてその精神的苦痛を慰謝しなければならない程の、被告の不法行為が立証されなければならないからです。この意味に於いて本件は、カルテを速やかに開示しなかった過程の中に、慰謝料をもって原告の精神的苦痛を慰謝しなければならない程の被告の不法行為を明確に認めたということです。

では、判決書面の中から被告、原告双方に不利益を生じない範囲で、その一部を知ることにより医療の提供側としてもそれを受ける患者側としても単純に利益があると判断される一部を抜粋します。

裁判所の判断
(これは、裁判所が原告、被告双方の主張のやり取りの全てを精査し、その中で事実として認定した事柄及び請求事案にに対しての判断とその根拠が書かれている部分の概要です。)

1、原告は被告歯科において、インプラント体の埋入及びインプラント二次手術を受けた後、手術部位から出血し、縫合処置をうけることを余儀なくされるなどしたため、被告に対する信頼を失い、被告歯科への通院を中止し、被告に対し、口頭で、診療過程の説明及びカルテの開示を請求するに至ったものと認められる。以上のような経緯に照らせば、原告には被告の診療行為の適否や、他の歯科医院に転院することの要否について検討するため、被告から診療経過の説明及びカルテの開示を受けることを必要とする相当な理由があったものと認められる。
 したがって、被告は上記のような状況の下では、診療契約に伴う付随義務あるいは診療を実施する医師として負担する信義則上の義務として、特段の支障がない限り、診療経過の説明及びカルテの開示をすべき義務を負っていたというべきである。しかるに、被告は、本件訴訟が提起されるまで、このような義務を何ら果たさなかったのであるから、このような義務違反について債務不履行責任ないし不法行為責任を負うものと解するのが相当である。

2、診療経過の説明を拒否した点について、被告は、原告や林歯科医師との面会を拒絶したのは、原告が口頭でカルテ開示を請求した日の原告の言動等により、原告に不信感が芽生えたこと、同日の原告の言動が威圧的であったことを原告本人が自覚していないこと、同日の原告の言動を警察に相談したところ、警察から相手にしないようにとの指導を受け、原告が来院したときには直ぐに連絡するよう助言を受けていたことなどから、原告との直接の話合いは不可能と判断したためであり、同日の原告の言動の不審さ等からすれば、上記判断は正当であり、原告や林歯科医師との面会を拒んだことには正当な理由があるなどと主張する。そして、被告ら作成の陳述書には、上記主張に沿う記載がある。

 しかしながら、原告作成の陳述書には、被告歯科において威圧的な言動をしたことはない旨の反対趣旨の記載があり、被告ら作成の陳述書の当該記載は直ちに採用できず、他に原告が威圧的な言動をしたと認めるに足りる証拠はない。仮に、同日の原告の言動が被告の主張どおりであったとしても、被告は、時間的間隔を空けてから説明を行うとか、書面で説明を行うなどの他の方法を何ら模索していないし、原告が書簡により面談による説明を希望したにもかかわらず、これも拒否するなど一切説明を行っていないのであるから、上記義務の違反があったとの結論は左右されない。

 また、被告は、原告が新たな担当歯科医師を教えてくれれば、直接被告がその歯科医師に対し、これまでの診療経過の説明をする旨を告げており説明義務の履行の提供を行ったなどとも主張するが、原告や林歯科医師に対して直接診療経過を説明することに特段の支障がなかったことは上記のとおりであるから、新たな担当歯科医師を教えてくれれば、その歯科医師に対して診療経過をすると申し出ただけでは、診療経過を説明する義務について適切な履行の提供を行ったことにはならないというべきである。

3、カルテの開示を拒絶した点について、被告は原告が口頭でカルテ開示請求をした日に、原告が威圧的な言動をしており、カルテを開示した場合には、被告歯科の正常な業務に支障が出るおそれがあったこと、原告が相談したとする歯科医師の助言内容は、被告の治療方法を批判するものであったため、当該歯科医師と直接連絡を取り、批判の真意等を確かめる必要があったこと、原告が提出した個人情報開示請求書の記載内容に不備があったことなど、開示を不適当とする相当な事由があったと主張する。

 しかし、原告が被告歯科において威圧的な言動をしたと直ちに認められないのは前期のとおりであるし、仮に、同日の原告の言動が被告の主張するとおりであったとしても、そのことが直ちにカルテ開示を拒む正当な理由となり得るとは考え難いというべきである。

 また、原告が相談したとする歯科医師と直接連絡を取り、批判の真意等を確かめる必要の有無といった事情は、カルテの開示の適否とはさしたる関係がないというべきである。

 そして、そもそも、被告は、診療契約に伴う付随義務あるいは診療を実施する医師として負担する信義則上の義務として、個人情報開示請求書の提出の有無にかかわらず、速やかにカルテの開示をすべき義務を負っていたというべきであるし、原告が提出した個人情報開示請求書の記載内容の不備は軽微なものにすぎず、いずれにしても、上記請求書の記載内容の不備は、カルテ開示を不適当とする相当な事由には当たらないというべきである。

 その他本件の事実経過を精査しても、被告が原告からのカルテ開示請求を拒否したことに、「診療情報の提供、診療記録等の開示を不適当とする相当な事由」は見当たらない。

4、原告の損害について、原告は、被告に対し口頭でカルテ開示を求めて以降、被告の指示に従って、個人情報開示請求書を作成、提出したり、その修正に応ずるなどしたほか、再三被告に対して文書を送付し、他の歯科医師に相談に行き、当該歯科医師から被告に対して働きかけをしてもらい、最終的には弁護士に委任してカルテ開示を求めたものの、被告が応じなかったことから本件訴訟を提起するに至ったものである。また、原告は被告に対し、インプラント治療で出血した部位の治療に関する説明を求めたにもかかわらず、その説明を受けることができなかったものである。他方、被告は、本件訴訟において、カルテを開示したこと、また、カルテが開示されたこと、及び当審における審理の過程により、出血部位の治療に関する事実関係を含め、被告の原告に対する治療の経過等が相当程度明らかになったことなどの事情が認められる。その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、20万円が相当である。
 また、本件事案の性質、内容、訴訟の経過、認容額などに照らせば、本件と相当因果関係のある弁護士費用としては、2万円を認めるのが相当である。

というものでした。結局は個人情報開示請求書などで申し込まなくても、特段の事由がなければカルテの開示は速やかに為されなければならないということだし、なかなか特段の事由となり得る事柄は少ないということです。つまり、医療者側とすれば、いつ請求されても問題のないカルテを記載しておくこと、すなわち治療過程が体系的に記され、その根拠などが示されているきちんとしたカルテを作ることです。これについては、POSによる歯科診療録の書き方。 日野原 重明監修 医師薬出版。の一読をお勧めします。

☆次回に続く


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