インプラント手術で死亡 院長有罪

過失致死罪で歯科医に有罪=インプラント手術で女性死亡―東京地裁

事故当時、週刊誌やテレビでも報道された医療事故は、禁錮1年6月、執行猶予3年(求刑禁錮2年)の有罪判決でした。

”吉村裁判長は「文献などから、行為の危険性はかなり知られていた」と指摘。「安全性に問題があるとされていた手術方法を、疑問を抱くことなく採用した」と批判した。”

医療トラブルの大半は民事裁判で争われ、刑事事件となる事はかなり珍しいのですが、感化できない事例だったのでしょう。一審とは言え上記のような有罪判決は、現在民事で争われている数多いインプラント事案に大きな影響を与えると思います。

即日控訴なので、今後も注目していきたいと思います。
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総括 | 実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その9)

具体的に歯科業界に役立つような視点での感想を書きたいと思います。

カルテは診療録であって保険点数の明細書ではない

まず、カルテそのものについて。今まで、歯科のカルテについてはほとんど語られてこなかったと思います。その一方で、昔から歯科のカルテは診療に関する保険点数の明細書にしか過ぎないと言われて来ました。実際、いやそんなことはない、と胸を張って言える歯科医はごく少数でしょう。今まさに歯科のカルテの書き方を抜本的に見直し、一般医科並みのレベルの”診療の記録”に引き上げるのが急務です。(一般医科の医師は、まともにしっかり書いている人たちが大多数です)カルテをきちんと書くことが医事紛争を招かない最も大きな要素になり得るものと思います。

カルテは誰のものか?

それは患者と医者の共有物なのでしょう。カルテをしっかり書くのは、はっきり言って時間が掛かります。しかし慣れてしまえば時間も当初よりは格段に短くなりますし、逆に、しっかり書かないと落ち着かなくなって来ます。そして、なによりの功は、治療経過や患者さんとの会話の記録等により、中身の濃い内容になり、治療による患者さんの口腔や身体状況の変遷が手に取るようにわかります。また、しっかりと今までの状況が把握出来ているので、治療法や手段の選択に迷いが少なく、治療効果も良くなります。これは歯科医側も患者さん側も共に無駄な時間や労力を使わなくて済むようになり、非常に良いことです。最近ではコンピューターでのレセプトになって来ているので、手書きのカルテは難しいと考える人がいるかも知れませんが、そんなことはありません、手書き用のカルテを別に作れば良いだけです。

「POSによる歯科診療録の書き方」 日野原重明監修 医師薬出版
を参考に是非試してみて下さい。数年後には全く違った診療スタイルになり、診療に於けるストレスも大幅に減っているでしょう。

「カルテをきちんと書けないのは、診療がきちんとしていないと言われても仕方がない。」とは上記文献の一説です。私では説得力がないかも知れませんが、あの、聖路加病院を作った日野原先生の言葉です。

インプラント治療について

とにかく第一に声を大にして言いたいのは、インプラントを打つ歯科医たちの大部分の人たちが、インプラントを打つこと自体が治療の目的になってしまっているということです。

歯科治療の目的は、顎、口腔系のストレスの軽減による顎、口腔機能の可及的円滑化及びその維持とゆるやかな衰退の管理です。(これについては、いつかどこかで詳細に表したいと思ってはいますが)わかりやすく言えば、口腔機能の速やかな回復の上で、最終補綴に至るのが筋だということです。つまり、歯科治療は口腔機能の回復が第一優先であり、インプラントというのはそれを固定化するための最終的な方法、手段のひとつでしかないということが忘れ去られているのではないでしょうか。

今回の件でも、やたらインプラント埋入に関する図付きの説明書類は多く、インプラントを打ってその生着が第一優先になってしまっており、肝心の治療開始から全補綴終了までの、いわゆる治療計画書が全く示されていません。これは、この被告に限ったことではなく、多くのインプラント治療をする人たちを含めた歯科医たちの共通する事柄です。実際に、保険治療で何か問題のあったときだけ散発的に来院する患者さんに対しては難しいとは思いますが、少なくとも、自費(インプラントを用いる場合は当然)で全顎的な治療を施す場合は、初期治療から最終補綴までの道筋の計画をしっかり立て、それを患者さんに十分に理解、納得してもらわないことには、施術側の歯科医としてもスムーズに治療して行くことは出来ないと思います。そして、本当にこのような意味合いで作成された他の歯科医の治療計画を見たことが今までの経験上ほとんどありません。

そしてもう一つの大きな問題は、治療途中では、ある程度の口腔機能の不具合は仕方がないと思われていることです。その”ある程度”の程度が高過ぎるということです。インプラントは最終補綴に用いる手段ですから、その手技を施す前に口腔機能の回復は終わっていなければなりません。つまり、テック(仮歯)にしろ治療用義歯にしろ、支障のない社会生活が送れる状況を治療途中でも保たれていなければいけません。治療の初期段階は第一優先でそれがなさなければならないのは異論はないでしょう。にも関わらず、私がその意識が明確に感じられる治療に出会ったのはほぼ皆無です。

(うがった見方をすれば、具合の良い治療用義歯なんかを入れてしまうと、「先生、これで良いです」と言われてしまうことを危惧しているのでしょうか?しかし、社会生活上、口腔に無駄な意識が向かわない状態を提供することが義歯治療で得られるのならば、インプラントを用いる場合と同じ価値があり、同じ額の費用を負担してもらっても構わないはずです。)

そして、今回の件が、治療途中の社会生活上支障のない口腔状況を保つことをおざなりにしているのを、端的に現していました。やみくもに、行き当たりばったりに手を付けて行く。その先にあるのは、どうにかインプラントが生着すれば、あとは上部構造を入れて何とかなるような曖昧な実感。

実際に原告はインプラント治療中は年単位でまともな口腔状況ではなく、私のところで装着した治療用義歯の段階で体重が4キロ以上回復したことを思えば被告の治療行為の質には明確な欠落があったのです。(原告から相談を受けたときから彼とよく食事をしたりしたのですが、彼は本当にあまり食べません、昔はそんなことありませんでした。もちろん食べられないということだったのです。よく回転寿司に行ったのですが、彼は3皿くらいしか食べません、それもやわらかい、いわしとかあなごとかです。私はそれを見て、人間というのは食べられないということにも相応に適応してしまうのだなと悲しくなったことがあります)

ですから、歯科治療とは歯を治すというよりは、歯を治すことを通して口の機能を治すということを、当たり前ですがしっかりと治療の根底に据え、今回のような全顎的に咬合崩壊があり、口腔機能に大きな障害のあるケースでは、まずは治療用補綴物を用いて最優先で口腔状況を整え、リハビリを通して咀嚼機能をメインとする口腔機能を回復しながら抜歯や根管治療、歯周処置などの初期治療を行い、社会生活を維持出来る口腔状況を保ちながらインプラントなどの最終補綴を施して行くことが、歯科医学上確立された通法であり、それをしっかりと治療開始前に患者さんに提示、説明し、納得の上治療を始めるのが必要だったのです。

昨今、インプラント治療を選択する患者さんが減って来ていると言われてます。でも、このようにまともな手続きを愚直に行うようにすることこそ、患者さんの増加をもたらす一番の早道なのではないでしょうか。もちろん、インプラントを用いた治療だけではありませんが。

最後に、どうして、インプラントをやる人たちは、上部構造を全部くっつけなければならないと思っているのでしょうか。ほとんど狂信的な気さえする程ですが。骨のないところまでわざわざ骨を作ったり、足したりしてインプラントを植え、上部構造を全部固定して、出来たと思ったら、何年もしないうちにその内の何カ所かのインプラントが危うくなり、そこだけ外すこともままならなくて、はい、やり直し。そこで患者さんがもうお金がないと言ったりすると、結局、そこだけ部分義歯を入れたりしています。

よく、「うちでは失敗したことはありません」のようなことを聞くこともありますが、その患者さんは他院に行っているだけです。林歯科には、そのような患者さんが少なからず訪れています。どうぞ、来なくなっている患者さんの追跡調査をしてみて下さい。

私がインプラントについて疑問に思っている主な事由

1) 歯根膜がなく咬合圧というか咬合時の衝撃(咀嚼時のみではなく)が直接顎骨に伝わることに対して何も言われてないこと。特に、かみしめの強い人などの区別がつけられた治療がなされていないこと。(個人的には、徹底したかみしめ対策なしには、インプラント治療は禁忌だと思います)

2) インプラントが生着し上部構造が機能するまでの、咬合回復をベースにした社会生活に支障のないレベルの口腔機能の確保がかなりの確立でなされていないこと。(「インプラント治療の途中は、よく噛めないのは仕方ありませんよ」にあぐらをかき過ぎ)

3) 高齢になり、全身状態が悪くなった時にインプラントを除去しなければならない場合の対処が困難なケースが少なくないことが予想されること。(実際に、特別養護施設で、義歯もなく、一本だけインプラントが突き出し、そこにガーゼを巻いて生活している人のケースを聞いたことがあります)

4) インプラント治療を終了しても、新たな欠損に対してインプラントを採用するならば、それはほとんどエンドレスな治療になる。また、その状況の元、老齢期になり全顎インプラント支台のリジッドな上部構造の管理は明らかに無理があること。(当然、患者さんの人生の終末の口腔環境を、負担を少なく過ごせるような良好な衰退を誘導することも歯科医療に含まれているはず)

5) インプラント手術の環境が、多くの場合、全身管理を含め劣悪なこと。(血圧も計らずに、抜歯をすることが当たり前のようになっている歯科界は、一般医から見ると冗談の様な世界で、生の顎骨をむき出しにするインプラント手術をオープンスペースで、全身管理もおろそかな状況で行われていては、早晩、インプラント手術は歯科医から医科領域に奪われるでしょう)

他にも色々ありますが、主なものとして、取り敢えず上記を挙げておきます。つまり、インプラントという治療手段の選択は、メリットもあるのでしょうが、デメリットも多くあります。歯科医療として顎、口腔系のストレスの軽減とその維持を求める時に、トータルとして、第一選択にはならないと思います。

総括

『インプラントから義歯へ』

昨今、歯科医師数が増え、歯医者暗黒の時代となって来ているのは、異論のないところでしょう。でも、私は逆にチャンスと思っています。なぜならば、淘汰されるのは、本来の歯科医療の本筋から外れたところにある人たちになるはずだからだし、私の中で、歯科医療についての答えが、ほぼまとまって来ているからです。逆に、これ程やって来て私が淘汰されるのならば、悔いはありません。私の中では、顎、口腔系のストレスの軽減という視点が根源であり、口を意識しない生活を長続きさせるために用いる治療手段としては、現時点では、義歯が最も扱いやすく、総合的にすぐれていると思います。

言うならば、良く言われている「入れ歯からインプラントへ」ではなく、その真逆の「インプラントから義歯へ」です。

我々が20年以上前、全身と咬合をメインに勉強を始めた頃には、「噛み合わせと肩こり」なんていうと気違い扱いされていましたが、先日、電車の中で、若いお姉ちゃんが「最近、肩が凝るのよ、噛み合わせが悪いのかな」なんて話しているのを聞きました。こんな時代が来るなんて隔世の感があります。それと同じように「インプラントから義歯へ」が常識になる時代が、来ると思っています。義歯は難しいと言われますが、技工を含めた義歯治療の本質をつかんでしまえば、難しくはありません。

こんなことを私のまわりの同業、歯科医師達にいつも言っては、ウザイと思われていますが、私は自分では、また、時代の先に、走り過ぎているんだと思うようにしています。たまに結構、真顔で、歯科医療について語ったりすると、きょとん、とする輩が多くて、逆に周りの歯科医師たちとのギャップに戸惑います。

例えば、8020運動についてでも、これは歯医者の「敗北宣言だ!」、つまり、歯の多く残っている人は、統計的に健康状態が良いので多くの歯を残しましょう、と言うことがベースだと思われますが、歯科医の役割は違うはずです。過程はどうであれ、結果的に自分の歯が少なくなってしまった人にでも、歯科治療の恩恵によって、統計的に自身の残存歯数による健康度の差はない、という口腔状況を歯科医としては提供しなければならないはずです。残存歯数によってこのような統計が出るのであれば、そこには人の健康に寄与する歯科医療が存在しないことになってしまうのではないでしょうか?

余談ですが、自民党の中曽根先生の朝の勉強会に講師で招かれた時もこのような話しをしました。中曽根先生は厚生委員もやっておられるらしく、最初のあいさつで8020運動という言葉が出て来たので、思わず上記のような本質の話を話してしまったので、それを言った場面では、何か、渋い表情のような気がしましたが・・・

いずれにしても、歯科医療全般のついて色々と語る場面があると、正直、きちんと論理立って、なるほど、なるほど、と話し合える人が極めて少ないのは残念です。

結論として、今回のこのブログ上で著したものが、少しでも歯科医療に関わる全てのものごとの向上につながれば良いと思っています。

最後に、ここまで様々なことをあちこちと飛びながらも書いて来ましたが、どうぞ何度も繰り返しお読み下さい。一度や二度位では、表面的にしか掴めないと思います。今回記したものは、全て事実に基づいたものです。是非、その事実の持つ、避けようのない重み、その行間にある実感的なものにまで踏み込んで下さい。

林 歯科 林 晋哉 拝

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カルテについて。私の本音(その2)| 実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その8)

 次に、カルテについてですが、カルテを押さえるには、このようなカルテ開示を表から請求するか、証拠保全という、裁判所に訴訟準備をするということで手続きをして、裁判所の担当官と共に診療所を突然訪れ、カルテなどを押さえてしまう強行手段があります。とにかくカルテを押さえる時には、書き換えられていないカルテが欲しいものです。通常、カルテ請求をしてから出てくるカルテは全てとは言いませんが、都合の悪そうなところは必ずと言っていい程、書き足したり、書き換えられているでしょう。

私が書いているカルテでも今のものならばそのまま出しても特段問題はありませんが、以前のものでは書き足したり、書き換えたくなるでしょう。したがって、カルテを押さえる時は、証拠保全の手続きを取って、書き換えや書き足しのなさそうな状態のカルテを押さえたいものです。しかし、この証拠保全には最低30万円位の費用が掛かります。ですので、経済的に余裕がないと厳しいですし、カルテを押さえたからといって勝てる訴訟になるとは限りません。

そしてやはり、誰しもが、もめ事は、おおごとにしないで、出来ることなら話合いの範囲でことを済ますことを望むものではないでしょうか。ですから、通常は証拠保全という強硬手段ではなく、まぁ、書き換えられてしまう可能性が高いだろうけど、正攻法でカルテを出して下さいとすることが多くなるのは仕方のないことです。

 今回も、まぁ、しっかりと加筆訂正された立派なカルテが出てくるのだろうと構えていたのですが、それがまた良くも悪くも、想像を遥かに越える「あっと驚く」カルテが出て来たのです。つまり、「書き換えて、これかよ!」というしろものです。一緒にカルテ分析した仲間の歯科医師もあっけにとられ、最初は困惑、つまり一、二度、見ただけでは「えっ、えっ、ここでこうして、次は、えっ、どうなってんの?どのような意図でこれをしてるの?えっ、してないの。O月O日、仮歯、折れ、修理。えっ、それだけっ?とか。えと、抜歯してそのあとスケーリングして、って、抜歯したあとスケーリングしてんの?」とか。

まず、脈絡がなく、本当に必要な記載がなく、何を、どんな風に意図してやっているのか、体系的に治療の流れが追えないカルテで、その割には、インプラントの時には、たまに図まで書いてあったりして。このたまにって言うのもどうかとは思うけど。それでも根気よく分析を勧め、回を重ねるごとに見えだして来ました。

確かに書き加えたり、書き換えの痕跡はありました。カルテを追って行くと、基本的には書きなぐりの一回の診療に付き一行くらいのものですが、突然、筆跡がはっきりし、図が書かれていたり、内容が丁寧だったりするのです。そして、またいい加減になり筆跡もはっきりしなくなるのですが、そのうち、きりっとしたりします。我々もそんなカルテを追っていると、「ああ、ここでコーヒー飲んだな」とか言って苦笑まじりになってきます。

 最後には、ほとんど治療がわからない程カルテを書かないっていうのも、訴訟がらみなんかになったら、逆に「あり」だなみたいな変な感想が出て来てしまったりさえしてきてしまいました。今思えば、これが被告歯科医師の本質的的な診療姿勢だったのだろうと思っています。つまり、インプラントを埋めるまでは行き当たりばったりでドタバタしても、インプラントを埋めて、くっつきさえすれば、あとはどうにかなるという感がひしひしと伝わって来ますし、実際そういうことで、こなして来たのだと思います。そして、そのような診療を「誠心誠意をつくした治療をして来た」と本気で言ってはばからないのです。

 そしてもう一つ。一回目のカルテ開示の拒否と「納得出来ないのならそちらで法的にやったら」という書簡が来た後に、それでも何とか弁護士を介さない範囲でと、今度は私から手紙を送って面談を求めました。これは言うならば会って下さいという私からの「ラブレター」です。ブログに公開していますので皆さんお読みになってから、これを見ているのだと思いますが、この手紙は気を使って、出来るだけ丁寧に書いたつもりで、きっと被告も私だけに会って歯科医同士の話しで収められるようにするのが得策だと判断し、てっきり面談を了承してもらえると思っていました。

そしたら、あの私の手紙を持って、警察に駆け込んだというんですから、いやはや、こうなるともう、何と表現したら良いやら、そしてホントかウソか警察も相手にしない方が良いと言ったというんですから。(実際のところ、警察としても、あの内容の手紙を持って駆け込んでくる人物を持て余して、適当な対応になってしまっていたんではないんでしょうかね)つまり、被告の人物が私の思う範疇でなくなって来て、そしてその思いは原告が依頼した弁護士からの最初の請求に対する被告の返答で、完全に、「こんな人が世の中にいるんだのクラス」にまで昇華したのです。

それは、弁護士からの請求に対して、カルテ開示のような個人情報開示請求とは、このようにするのだという説明を面々と綴ったものを代理人を付けずに個人として内容証明で送って来たのです。これには弁護士さんと顔を見合わせて、まずはびっくりとしましたが、「困ったな」というのが本当の意味でした。なぜならば、まともなやりとりが出来ないからです。

 結局、今まで経験したことのない程、「とんちんかん」な対応をする人達を相手にしているということが、法的な場に移った後でさえ、やり取りを続ける内にますます分かって来て、書面を受け取る度に、「はぁー?」となってしまうような想像の範疇を越えた内容が最後まで続き、ショックを受ける程だったというのが、最初のやり取りが始まって以来うすうす漂っていましたが、最後の方に、はっきりとに分かったということです。私としては、そんな筈ないよなー、という思いがずっと続いていて、どこかでまともな反論に出会えると思っていたのですが、最後の最後までそのようなことがなく、「なんだかなぁー」というのが本音です。

 これが、今回の件での本当のメインの感想です。当然、全くの個人的感想なのでいわゆる根拠の示せないものも多く含まれていますが、あながち、全くの外れということではないと思っています。

 そして、なぜこんなことをここまで詳しく書いたのかと言えば、一番は、恥ずかしいほど社会性に欠け、無知で傲慢としか言えない、この被告の来し方そのものが紛争を招いたのであり、さらに紛争を大きく長期化させたものとの結論を、紛争の経過を通して、私が確固として持ったからです。そして、残念ながら現状の歯科界ではレアケースとは言い切れないのです。ですから、このことを広く伝えることは、歯科医療の提供側と歯科医療の受領側にとって益のあるものと信じたからなのです。

 では次には、具体的に役立つような視点で書きたいと思います。

☆次回に続く

そして私の本音。画期的な判決(その2)| 実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その7)

結局、判決の後は双方控訴せず。慰謝料も支払われ裁判は終わりました。

裁判はひとつの判例が、それ以後の裁判にさまざまな影響を与えますので、今回の原告側の主張が全面的に受け入れられた画期的な判決も、患者側の利益になる判例として少なからず意義があったと思います。

裁判は日常生活から一番遠いところにありますので、当事者になって初めてその独特なシステムに戸惑い、混乱し、疲労するのがパターンです。原告の友人も当事者でありながら、別世界で展開されるやりとりに嫌気がさしたようで、次のステップへ進む気力は残っていませんでした。

友人のその後の治療は私が引き継ぎ、義歯を用いて、よく噛めるようになり、顔貌も元に戻りました。結果的に言えばそもそもインプラントは何だったのか?という事になります・・・

私の本音(その1)

最後にまとめ的な感じで全く個人的な感想をいわゆる本音というか「ぶっちゃけ的に」書きたいと思います。これまで途中で、多少感想的なものも書いて来ましたが、今から書くのは私が感じた本音です。

 まず最初に言いたいのは、この被告の性質というか人物がかなり変わっているということです。自分を含め、人は皆、多少は変わっていますが、被告の場合はその多少という範囲を明らかに逸脱しているでしょう。実際のところ少しショックを受けた位です。

 この件で、私が原告(友人)から相談を受けたとき、まず思ったのは、このケースでは大きく(原告が満足するような、今まで支払った治療費の大部分の返還などのような)お金を取るのはかなり難しいだろうということです。まずこれを原告に言いました。なぜならば、色々あったにせよ現にインプラントは問題なく生着し、上部構造を補綴出来る状態になっているからです。つまりインプラント治療による結果としての明らかな損害が認められない状態と言えます。結果的な明らかな損害がない場合に賠償を取るのは非常に難しいのです。私が相手側なら、とにかくそれをメインに主張し、問題のない状態のインプラントが提供されているので、法的に損害を賠償しなくてはならない程の医療上のミスはないと主張します。手術後の後出血などはあったにせよ、それはよくある範疇のことで、カルテにもそう記載してあれば、結果、今、何ともなくインプラント体自体は使える状態でしょ。と言われれば、そこから先を進めるのは容易ではありません。それを思うからこそ原告にそれを伝え、それでもやりたいなら弁護士に依頼しない範囲で解決を計るのが良いと話しました。なぜならば、弁護士に依頼してことを進めても、弁護士費用を上回るお金は取れないだろうと思ったからです。原告はそれでも腹立ちが納まらないので、何とかやることはやると言います。

 原告の彼が何に腹をたてているのか。それは具体的には被告にゴミのように扱われたことです。例えば、被告歯科に通院出来なくなったあとに、彼の兄がインプラント治療を受けた別の歯科に行って、被告による原告(友人)の受けた治療が「デタラメだ!」的なことを言われたので、原告は当然頭に来て被告歯科に行き、「どーしてくれるんだ!俺の受けた治療はデタラメと言われたぞ!金返せ!カルテを渡せ!」という感じになったのでしょうし、この流れでは、こうなるのは、よくある話の範疇ではないでしょうか。

 前医を気軽にこきおろすこの歯科医師も問題ですが、被告も「日を改めてお話をさせて下さい」位の対応は出来なかったのでしょうか。その後被告は個人情報請求書を送りつけ、書いて提出したら、今度は、本人確認の書類が足りない、記載の訂正、批判した歯科医師の連絡先がない、と再度の提出を求め、批判した歯科医師の連絡先以外に応じて再度提出したら、「正常な業務に支障をきたす恐れがあるとかなんとか」で全ての原告の治療に関わるものの開示を拒否して来ました。つまり、しっかりと言われたものを言われたように手続きをした原告をあざ笑うようなことをしてのけたのです。よくある、壁に「右見ろ!」と」書いてあり右を見ると「上を見ろ!」そして「左を見ろ!」「下を見ろ!」と続き、最後に「バカ!」と書いてある、というようなことを原告は被告から味わったのです。

 ですから、何とか溜飲を下げたいと思うのも致し方ないでしょう。更に言うなら、被告は、この被告の治療を批判した歯科医師の連絡先を教えることがカルテ開示に必要な条件と最後まで真顔で要求している、この被告の感性というか論理性の欠如というか社会性の欠如は、どう理解すれば良いのでしょうか。全然要求としては成り立たない理由でしょう。私は被告が批判した歯科医師を知りたいのは興味本位のもので、真顔で連絡先をカルテ開示の条件としてるのは、冗談の範疇だと思っていましたし、以降の手続きの中で消えて行く文言だとばかり思っていました。(そしてもし、それを知ったとしたらどうしたんですかね。それこそ、その批判した歯科医師のもとに押し掛け、「俺の治療のどこがデタラメなんだ!」と、ヘタをすれば刃傷ざたにでもなっていたんじゃないでしょうかね。)しかし結局、訴訟になってもカルテ開示の拒否の正当性の根拠として主張し続け、とうとう判決の中であっさりと「カルテの開示にさしたる関係はない」と当たり前ですが、一蹴されています。まだあります、被告は原告が最初の個人情報開示請求書を被告歯科に持参した際に、原告はマスクを付け、血走った目をして、タメ口を聞き、最後は居酒屋に去って行った。という書面を法的場に提出しています。被告は、これを書くことで原告がまともではないということを印象付けたいのでしょうが、法的な場でこんな一方的な妄想のような思い込みは通用するものではなく、もし、本当にやるならば、写真や音声の録音など、ある程度証拠となるものがあっての話しになるでしょう。紛争の場にはこれと似たようなことは多々起きることもありますが、実際には、そんな用意周到な証拠があるケースはほとんどないので、気持ち的には分かるが、それを言っても仕方がないと諦め、他にもっと説得力のある材料を探す努力をするもので、いわゆる、言った言わないの範囲のものは持ち込まない、というのが法的な場のルールですし、もし、持ち込んでも相手にされません。。また、患者がタメ口を聞いたからと言って何が問題なのでしょう。一体、被告は何様になったつもりなのでしょう。(たかが、歯医者でしょ)案の定、これらの事柄については判決書面の中では全く触れられていませんでしたし、原告からの反論の中でも具体的に、花粉症なのでマスクが欠かせないものであったこと、原告は車での運送業務を社会人になってからこの方ずっと生業にして来たので、飲んで運転して来る訳がないことを示され、全く根拠のない誹謗中傷であり、逆に、臆面もなくこんな思い込みを、さも事実のように法の場に持ち込む被告の姿勢は如何なものか。とされてしまい、少なくとも裁判所の被告に対する印象は良いものにはならなかったでしょう。更に、私は、被告についている弁護士達も、こんなことをよく言われるままに出してくるなぁとも思っていました。これは、弁護士達は被告に言ったけれども全く理解されず、被告が固執し、言い張って、弁護士達もあきらめてしまったか、弁護士達のやっつけ仕事だったかのどちらかのような気がします。

☆次回に続く

『画期的な判決』(1) | 実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その6)

我々原告側の予想を超えた判決がなされました。
 
インプラント治療をめぐる医療裁判は、その後やり取りは数度続き、その間に和解の検討もされました。その際の条件が被告が原告に和解金として雀の涙的な金額を示し、それを支払うかわりに、今後、被告歯科での原告の治療に関する一切の異議、紛争を起こさないこと及びこの事案を公開しないというものでした。原告の今回の賠償請求金額は130万円余りでした。しかしこの金額は裁判ではよくある多めの請求の性格はありましたし、このような訴訟内容(メインがカルテ開示請求であることで、しかも裁判途中で開示がなされている)ですから、当初から弁護士を含め我々原告側では、判決まで行ったら、すでにカルテは開示されているのだから裁判所的にはもう良いだろ的になり、まあ、金銭的には一銭も認められないだろうと予想していました。 
 
 被告側の弁護士達もそんな感じでタカをくくっていたというのが本当のところでしょう。なにせ途中から向こうの弁護士たちは職業的にはやっているが、力は注がれておらず、いい加減というか、流している感じでいました。つまり慰謝料が付くような判決にはなりようがないと舐めていたということでしょう。だからこそ、お金を少しくれてやるからもう黙れ的な和解条件が出てきたのでしょう。

 しかし、こちらも簡単に勝てるものとはハナから思っていないし、まずはカルテを押さえて徹底して分析すれば何か出てくるだろう。そして今度はそれを元に治療内容の不備や注意義務違反を根拠に別立ての損害賠償訴訟を起こし、そちちで賠償金を請求しようという流れを意識していました。
 
 ですので、本訴訟ではもう一円ももらえなくてもいいから判決まで行こうとなり、ついに裁判所の判断を受けました。

裁判所による判決。

平成2×年(ワ)第××××号 個人情報開示等請求事件

判決。

主文。
1、被告は、原告に対し、22万円及びこれに対する平成2×年O月O日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2、原告のその余の請求を棄却する。
3、訴訟費用は、これを13分し、その2を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
4、この判決は第1項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が原告に対し、16万円の担保を供するときは、その仮執行を免れることができる。

というものでした。その結果を聞いた時、全くそのような結果を予想していませんでしたので本当に驚きました。我々が予想していたのは、よくて数万円の慰謝料で、弁護士費用などはとてもじゃないけど認められないだろう。悪ければ、カルテは開示されているのだから金員的には全くのゼロだろうと思っていましたし、専門的な予想としてはこれが今までの常識的なラインでした。

それを表すエピソードとして、通常、判決の出る当日は、弁護士を含め当事者としては特別の日であり一刻も早く結果を知りたいと思うものですが、我々の担当弁護士はほとんどその結果に対して期待をしていませんでしたので、忙しいとはいえ、その判決の書面を取りに行くのを後回しにしていた程でした。しかし、結果は被告の主張をことごとく退け、原告の大勝利と言って良い上記のようなものでした。
 
この22万円の内訳は、20万円がカルテ開示を本訴訟まで不当に引き延ばしたことより被告歯科医師が原告に与えた精神的苦痛に対する慰謝料で、2万円が原告の弁護士費用の内の被告の負担分です。

 通常、裁判に於いて金員的に認められやすいのは、事実としての損害に対するもの、例えば交通事故による怪我の治療費とか物を壊した時の弁済費用などで、離婚裁判以外で慰謝料が日本の裁判で認められるのはかなり難しいでしょう。なぜならば、訴訟過程においてその精神的苦痛を慰謝しなければならない程の、被告の不法行為が立証されなければならないからです。この意味に於いて本件は、カルテを速やかに開示しなかった過程の中に、慰謝料をもって原告の精神的苦痛を慰謝しなければならない程の被告の不法行為を明確に認めたということです。

では、判決書面の中から被告、原告双方に不利益を生じない範囲で、その一部を知ることにより医療の提供側としてもそれを受ける患者側としても単純に利益があると判断される一部を抜粋します。

裁判所の判断
(これは、裁判所が原告、被告双方の主張のやり取りの全てを精査し、その中で事実として認定した事柄及び請求事案にに対しての判断とその根拠が書かれている部分の概要です。)

1、原告は被告歯科において、インプラント体の埋入及びインプラント二次手術を受けた後、手術部位から出血し、縫合処置をうけることを余儀なくされるなどしたため、被告に対する信頼を失い、被告歯科への通院を中止し、被告に対し、口頭で、診療過程の説明及びカルテの開示を請求するに至ったものと認められる。以上のような経緯に照らせば、原告には被告の診療行為の適否や、他の歯科医院に転院することの要否について検討するため、被告から診療経過の説明及びカルテの開示を受けることを必要とする相当な理由があったものと認められる。
 したがって、被告は上記のような状況の下では、診療契約に伴う付随義務あるいは診療を実施する医師として負担する信義則上の義務として、特段の支障がない限り、診療経過の説明及びカルテの開示をすべき義務を負っていたというべきである。しかるに、被告は、本件訴訟が提起されるまで、このような義務を何ら果たさなかったのであるから、このような義務違反について債務不履行責任ないし不法行為責任を負うものと解するのが相当である。

2、診療経過の説明を拒否した点について、被告は、原告や林歯科医師との面会を拒絶したのは、原告が口頭でカルテ開示を請求した日の原告の言動等により、原告に不信感が芽生えたこと、同日の原告の言動が威圧的であったことを原告本人が自覚していないこと、同日の原告の言動を警察に相談したところ、警察から相手にしないようにとの指導を受け、原告が来院したときには直ぐに連絡するよう助言を受けていたことなどから、原告との直接の話合いは不可能と判断したためであり、同日の原告の言動の不審さ等からすれば、上記判断は正当であり、原告や林歯科医師との面会を拒んだことには正当な理由があるなどと主張する。そして、被告ら作成の陳述書には、上記主張に沿う記載がある。

 しかしながら、原告作成の陳述書には、被告歯科において威圧的な言動をしたことはない旨の反対趣旨の記載があり、被告ら作成の陳述書の当該記載は直ちに採用できず、他に原告が威圧的な言動をしたと認めるに足りる証拠はない。仮に、同日の原告の言動が被告の主張どおりであったとしても、被告は、時間的間隔を空けてから説明を行うとか、書面で説明を行うなどの他の方法を何ら模索していないし、原告が書簡により面談による説明を希望したにもかかわらず、これも拒否するなど一切説明を行っていないのであるから、上記義務の違反があったとの結論は左右されない。

 また、被告は、原告が新たな担当歯科医師を教えてくれれば、直接被告がその歯科医師に対し、これまでの診療経過の説明をする旨を告げており説明義務の履行の提供を行ったなどとも主張するが、原告や林歯科医師に対して直接診療経過を説明することに特段の支障がなかったことは上記のとおりであるから、新たな担当歯科医師を教えてくれれば、その歯科医師に対して診療経過をすると申し出ただけでは、診療経過を説明する義務について適切な履行の提供を行ったことにはならないというべきである。

3、カルテの開示を拒絶した点について、被告は原告が口頭でカルテ開示請求をした日に、原告が威圧的な言動をしており、カルテを開示した場合には、被告歯科の正常な業務に支障が出るおそれがあったこと、原告が相談したとする歯科医師の助言内容は、被告の治療方法を批判するものであったため、当該歯科医師と直接連絡を取り、批判の真意等を確かめる必要があったこと、原告が提出した個人情報開示請求書の記載内容に不備があったことなど、開示を不適当とする相当な事由があったと主張する。

 しかし、原告が被告歯科において威圧的な言動をしたと直ちに認められないのは前期のとおりであるし、仮に、同日の原告の言動が被告の主張するとおりであったとしても、そのことが直ちにカルテ開示を拒む正当な理由となり得るとは考え難いというべきである。

 また、原告が相談したとする歯科医師と直接連絡を取り、批判の真意等を確かめる必要の有無といった事情は、カルテの開示の適否とはさしたる関係がないというべきである。

 そして、そもそも、被告は、診療契約に伴う付随義務あるいは診療を実施する医師として負担する信義則上の義務として、個人情報開示請求書の提出の有無にかかわらず、速やかにカルテの開示をすべき義務を負っていたというべきであるし、原告が提出した個人情報開示請求書の記載内容の不備は軽微なものにすぎず、いずれにしても、上記請求書の記載内容の不備は、カルテ開示を不適当とする相当な事由には当たらないというべきである。

 その他本件の事実経過を精査しても、被告が原告からのカルテ開示請求を拒否したことに、「診療情報の提供、診療記録等の開示を不適当とする相当な事由」は見当たらない。

4、原告の損害について、原告は、被告に対し口頭でカルテ開示を求めて以降、被告の指示に従って、個人情報開示請求書を作成、提出したり、その修正に応ずるなどしたほか、再三被告に対して文書を送付し、他の歯科医師に相談に行き、当該歯科医師から被告に対して働きかけをしてもらい、最終的には弁護士に委任してカルテ開示を求めたものの、被告が応じなかったことから本件訴訟を提起するに至ったものである。また、原告は被告に対し、インプラント治療で出血した部位の治療に関する説明を求めたにもかかわらず、その説明を受けることができなかったものである。他方、被告は、本件訴訟において、カルテを開示したこと、また、カルテが開示されたこと、及び当審における審理の過程により、出血部位の治療に関する事実関係を含め、被告の原告に対する治療の経過等が相当程度明らかになったことなどの事情が認められる。その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、20万円が相当である。
 また、本件事案の性質、内容、訴訟の経過、認容額などに照らせば、本件と相当因果関係のある弁護士費用としては、2万円を認めるのが相当である。

というものでした。結局は個人情報開示請求書などで申し込まなくても、特段の事由がなければカルテの開示は速やかに為されなければならないということだし、なかなか特段の事由となり得る事柄は少ないということです。つまり、医療者側とすれば、いつ請求されても問題のないカルテを記載しておくこと、すなわち治療過程が体系的に記され、その根拠などが示されているきちんとしたカルテを作ることです。これについては、POSによる歯科診療録の書き方。 日野原 重明監修 医師薬出版。の一読をお勧めします。

☆次回に続く