実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その5)

2、当該医師のカルテ記載について

Ⅲ.により、カルテとは、診療行為が為された時に、遅滞無く施術した順序でその内容が記載されなければならないものであり、その内容は、「何を、どのように評価し、どのような処置をし、どのような経過で、どのようになったのか、そしてその結果に基づき今後どのような方針で臨むべきか。」を記録するものである。これによりその治療行為に至った根拠と、思考や治療自体の変遷が記録され、その積み重ねにより、以後、その患者さんにより精度の高い診療を提供する為の礎となるものである。これを疎かにすれば、不必要な治療を行ったり、効果のない治療を続けたりするような、患者さんに不利益を与えるような可能性を高くするものである。

 カルテをきちんと記載する事は、患者さんに正しい医療行為を提供するという医師として最も守るべき原則を遂行する上で、欠く事の出来ない最も基本的な行為である。
 
 そこで本件のカルテ分析には、全員が臨床経験15年以上の、インプラント医を含む複数の歯科医師が当たった。

 その上で一致した見解は、被告記載のカルテは記載内容や記載方法に一貫性がなく、記載されるべき内容に著しく欠け、カルテが有するべき性質から大きく逸脱したものであり、カルテ(診療録)の呈をなしていないということである。

 被告のカルテには全般に渡り、系統だった所見の記載がなく、「何を、どのような根拠で、どのように処置して、どうだったから、どうした。」という内容が掴めないものである。具体的には、インプラント手術時には血圧のモニターを行ったとの主張がなされているが、その記録のカルテへの添付や記載は一切存在しない。これは記載すべき事項を記載しないという杜撰さか、モニターを行っていないことを表すものである。また、投薬した薬剤の名称、用量、用法が書いてあったり、なかったりし、その投薬の目的が術後の感染予防なのか、腫れなどの対症的な投薬なのかなどには記載がない。更に被告カルテには、全般的に必要事項の記載がほとんどない中、突然、図を用いた説明があったりし、そのカルテの図を直接患者さんに見せて説明したのかという問いに対しては、別の紙に書いて説明した旨を主張しているが、そうであるならばその旨をカルテに記載するか、その説明に用いた紙をカルテに添付するかするべきである。それがなされていない以上、その説明がなされたかどうかは、全くわからない。また後の被告準備書面(2)では記載もれやの記載の間違いを複数、被告自ら指摘するに至っている。

 このようなことから被告によるカルテの記載は明らかに不備、不十分であり、このようなカルテでは診療経過を明らかにできず、そもそも診療自体が不十分であったとの非難も免れない。(参考文献1)

4、休診日前日のインプラント手術の施行について。(参考文献2)

通常、歯科処置の中で外科手術(抜歯手術、インプラント手術、歯周外科手術など)は休診日前日に行われるべき処置ではない。言うまでもなく、このような外科処置後には、痛み、後出血、腫れ、炎症の急性化などが起こることがままあり、このような場合に対応出来る体制を持たなければならないからである。もし、休診日前日に外科手術をしなければならない場合は、これに準じる体制を持ち、最低でも施術者自身で対応出来ない時があることを想定し、その際の受診先の情報の提供はなされるべきである。

 しかるに被告の対応は、自身の連絡先を教えるのみであり、しかも寝不足と薬の服用によって2度目以降の電話に対応出来ないというありさまである。こういうことがあるからこそ休診日前日の外科処置は行われるべきではないし、もし、行うとすれば、寝不足をしないことや眠気を催す薬は服用しないか、自身に替わって対応出来る受診先の情報を前もって提供することである。また、被告のこの寝不足と薬の服用が、原告が手術後の後出血で苦しんでいることに対応出来なかった理由をなんら正当化するものではない。

5、2度の手術後の後出血について。

外科処置後に起こり得ることには上記4で述べたように様々なものがあるが、大事な事は、それがなぜ起きたのか、今後そのようなことが起きないようにするにはどうすればよいかを検証、考察することであり、医師として当然なされなければならない事である。

 手術後の後出血の要因となるものには、代表的なものだけでも、患者さんの全身状態(高血圧、出血傾向、抗血液凝固剤の服用、糖尿病など)や創傷部の座滅、歯肉の不十分な骨膜からの剥離、不十分な縫合などが考えられる。

 しかるに被告のカルテには、手術後の後出血を2度も経験しているにも関わらず、それを検証、考察する記載が一切ない。これでは被告の診療に対する姿勢には明らかに問題があると言わざるを得ない。

6、その他。(付記として。)

① 被告準備書面(2)第1-3 口腔内写真について。

この書面の中で、口腔内写真は口腔内の状態を確認するもので、問題がなければ口腔内写真のデータを消去することを口腔内写真が存在しない理由としているが、そもそも、口腔内写真は口腔内の映像的記録にのみ用いられるものであって、写真によって口腔内の状態の確認をするものではない。これは診断の範疇であって、口腔内の状態の確認は医師自身の診察によってなされるものである。

 口腔内写真は、治療前後の比較の記録や自身ではよく見る事のできない患者さんへの説明用として大きな価値を発するものである。
問題のない状態の口腔状況の口腔内写真は消去することが前提ならば、問題があるかないかは、視診などの医師による診察により判断されるものであるから、その時点で口腔内写真を撮らなければ良いのである。

② 被告準備書面(2)第1-4について。

治療に関する資料について、Ⅱで示した診断に必要な検査の項目にある診断用歯列模型(スタディモデル)は、3年間の保管義務がある。にも関わらず一般的に証拠保全の対象とされる資料(当然、スタディモデルはその対象である。)はすでに原告側に渡されているもの以外に存在しない。と間違ったことを断定されているが、その姿勢は如何なものか。

③ 被告準備書面(2)第2-2について。 

予診表で原告の高血圧や糖尿がないことは確認されていると主張するが、予診表とは、問診診査をするときの補助とするものであり、これで患者さんの全身疾患の有無を確認出来るものではない。

 また、問診で重要なのは、患者さんの訴えをうのみにすることなく、無自覚やコントロールの悪い全身疾患を慎重に排除することであり、そのためには一般医科との連携が不可欠である。

④ 被告準備書面(2)第2-4 (1)(2)について。

左下2、3の歯冠形成(生PZ)によりむしろ咬合が維持したなどと主張しているが、これは歯冠形成の意味を全く理解していないものである。歯冠形成とは、歯牙の歯冠を冠を被せる為に必要な分を一回り削除する行為を指すのであって、生PZの表す意味は、有髄歯(神経の生きている歯)の歯冠を冠を被せる為に一回り削除したということである。

 この行為は、その時点で左上下の2、3部しか咬合支持がない状況で歯冠の削除を行っているのである。

しかるに被告準備書面によるこの主張は、準備書面の記載者に十分意味が伝わってなかったのか、字面の歯冠と形成による判断からか、全く間違った根拠の上でなされている。法的な場で、このようななされようは如何なものか。

⑤ 被告準備書面(2)第2-5について。

歯冠形成し、歯型も採っていたが歯が非常に動揺しているためバイト (噛み合わせの位置)が取れず、冠の作製を中止したとあるが、バイトも取れない程の動揺歯をどのように歯冠形成(歯冠を一回り削除すること)し歯型を採ったのであろうか、また、翌日に再確認しなければその動揺は発覚し得なかったのか、明らかに矛盾している。

 ⑥ 被告準備書面(2)第2-7について。
 
 原告の仮歯の繰り返しの破損は、初診からあった原告の歯周病歯の動揺が原因であるとの主張がなされているが、そもそも歯科医師による治療は、そのような時にこそ発揮されるべきものであって、そのような歯を含む口腔内状況に対して処置を施し、何とか咬合の安定を得るのが歯科医の役割である。また、この時使用される、仮歯の材料は、レジンと呼ばれるプラスチック樹脂であり、正常範囲内での咬合力による負荷での耐久性に問題はなく、実際の臨床として、数年に渡り破折することなく使用に耐えることも少なくない。この仮歯での破折が続く場合  に歯科的に考えなければならないのが、この仮歯に過剰な負担がかかるから破折するという認識であり、その原因で一次的に考えられるの は、付与した咬合関係の不調和であり、二次的な因子として、食いしばりなどの悪習癖である。もし、耐久性に問題があり頻繁に破折することを容認するものであれば、当然、歯科臨床の現場で使用され得るものではない。

まとめ。

以上1~6までに述べて来たように、被告の治療内容は歯科医師としては未熟で拙幼であり、診療に対する姿勢は明らかに不誠実である。
 また、これからのインプラント治療を含む歯科医療の向上や更に精度の高い検証のために、このケースは、各学会(日本口腔インプラント学会、顎咬合学会、日本咀嚼学会など)や各スタディーグループなどより多くの歯科医師の方々に広く開示し、賛否を含めより多くの意見を得ることが必要と思われる。

(参考文献1:POSによる歯科診療録の書き方。 日野原 重明監修 医師薬出版。

今回の件に関し、このような意見書をカルテ分析をした歯科医と連名で裁判所に提出しました。

ここまでのもので全てではありませんが、今回の件に関し、被告、原告双方に不利益を生じない範囲の一般的歯科治療の考察を記しました。この意見書の内容を知ることにより、歯科医療の提供側としても、それを受ける患者側としても、利益があると判断した部分です。

参考資料2:「知らないと怖いインプラント治療 」 抜井 規泰 著  朝日新聞出版

☆次回(判決)に続く

実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その4)

(前回までの)経緯の中で、原告側の協力歯科医として、そのカルテ分析に携わったメンバーの連名で意見書を裁判所に提出するわけですから、自然と力が入ります。その意見書の実際を提示したいとは思うのですが、さすがにそれは差し障りがあると思われますので、その抜粋を書き出します。

意  見

基本的事項

Ⅰ:歯科治療の目的。
  歯科治療の目的は、顎・口腔系の機能及び審美の速やかな回復とその維持。である。

Ⅱ:歯科治療の基本的な流れ。

1、診断に必要な検査。(歯科レントゲン。診断用歯列模型。歯周検査。問診(全身及び歯科的既往歴、現症歴。)顎関節状態。顎運動状態。口腔清掃状態。ブラキシズムなど悪習癖の有無。その他。)

2、診断及び診断に基づく治療計画の立案及びそれらの十分な説明と同意。(保険治療と自費治療の区分やそれに関わる費用の説明を含む。)

 最低限この過程の上、実際の治療行為に移行する。具体的には、
①初期治療:疼痛の除去や抜歯適応歯の抜歯、根管治療及び歯周処置が行われる。歯周治療は通常、処置部位を分割して一回目の歯周処置を全顎的に行い、以後は、再評価をもとに、歯周状態の改善度が悪い部位について更なる歯周処置(歯周外科手術など)や口腔衛生指導が施され、再評価のもとに、抜歯を含む予後の判定が行われる。そしてこの初期治療の結果により必要に応じて当初立案した治療計画の修正を行う。

②咬合の構築治療:初期治療で歯牙状態そのものの改善や予後不良のための抜歯処置などが終了した時点で、治療用補綴物(いわゆる仮歯を含む、治療用の歯や義歯。)を用いて全顎的な咬合の安定した構築のための処置を行う。但し、初期治療開始時に全顎的な咬合支持の不足などによる、咬合状態の著しい不具合(咀嚼不良など)があれば、初期治療開始と並行してこの咬合の構築治療は行われる必要がある。

③最終補綴治療:②に於いて、良好な咬合関係の回復、安定が得られた後に、治療用補綴物を最終的な材料に置き換える処置を行う。
 (インプラント処置は最終補綴の為の手段であるので、この段階で行われるものである。)

④メインテナンス(管理):得られた良好な口腔状況の維持及びそれを障害する要因の予防などの為の定期的管理。

と原則的にはこのような治療の流れとなる。

 

Ⅲ:カルテ記載について。

カルテとは診療記録のことであり、診療行為を為した際に、遅滞無く施術した順序で記載されるものである。(参考文献1)
診療記録には基本的に何が書かれるものなのか。
;患者の個人的、社会的情報。(過去、現在とも)
;患者の健康状態(病的な状態も含む)とその変遷の経過。(過去、現在とも)
;診療(看護を含む)の計画。(到達目標を明記したうえで)
;診療(指導、教育、説明内容を含む)の内容、結果、経過の経時的記録。
;担当者の判断、判断の根拠、思考過程。
;診療従事者の責任の所在。(署名)
;診療評価。
;要約(サマリー)
;事務的、法的記録。

また、診療に際しての経過記録の基本的記載の仕方は。
S:Subjective(自覚的症状)
O:Objective(他覚的所見)
A:Assessment(感想、判断)
P:Plan(方針)
の4つの項目である。

例えば、ある歯周病の歯について記載するとすれば
「右上第二小臼歯、自発痛(S:自覚的症状)はないが、腫脹と排膿があり(O:他覚的所見)、前回の処置による改善が見られないので抜歯の適応であると思われる(A:感想、判断)。抜歯の承諾を得るための説明が必要である。(P:方針)」
と最低限このような記載となる。

Ⅳ:保険治療と自費治療の区分について。

 使用材料や施術の時期、回数、方法などの制限はあるものの、基本的に全ての歯科疾患に対して保険治療は網羅されており、病態とみなされないもの(成人の歯列矯正、ホワイトニングなど)や制限外の材料や手技(インプラントを用いる補綴処置、セラミックの被せ物など)を用いる場合以外は、保険治療の対象である。

質問事項に対して

上記Ⅰ~Ⅳの基本的事項に則り、以下、本件について意見を述べる。

1、 当該医師による治療について。

前記、Ⅰ、Ⅱより、歯科治療は歯科的特徴を踏まえた上でその治療法は構築されている。つまり、歯科治療は、系統的な診査を行い、その診断結果の患者への十分な説明のもとによる理解と自覚のもとに、顎・口腔系に対する機能及び審美面での回復を可及的速やかに計り、以後、維持の為の管理に移行することである。
  その治療自体の流れは高度に確立されたものであり、単一方向への流れで成り立っている。具体的には、診査、診断、治療計画の立案、処置、処置への再評価、治療計画の修正、顎・口腔機能の正常範囲での確立、最終処置、管理である。  
従って、歯科治療に於いて、術者による特別の治療の流れが存在する余地はなく、施術者の特徴が現れるのは、その用いる手段や方法、薬剤の種類や外科手術の熟練度や技術の高さ、全身管理(運動や食事の指導など)などであって、歯科治療の基本的な流れは施術者によって変るものではない。
 
 当然、本件の場合もこの範疇から外れるものではなく、まず為されるべきことは、初期治療から最終補綴処置までの治療計画の説明と同意の上、医学的に適切な歯科的手技、手法を用いて、顎・口腔系の器質的状況(歯周組織の回復、歯牙状態の回復、咬合関係の回復、顎関節の機能の回復など)及び顎・口腔系の機能的状況(咀嚼機能の十分な回復、顎運動の偏りの是正、悪習癖の除去など)の整備を可及的速やかに求め、顎・口腔系の正常範囲内の機能を得ることである。そしてしかる後に、この正常範囲内の機能の維持を計る為の最終補綴処置の手段としてインプラント処置を施すべきであった。
 
 また、当然ながら、治療途中の仮歯や仮義歯のような状態といえども咬合関係の不安定や疼痛・動揺などの存在などによる顎・口腔系の不調和を長く留めてはならない。
 しかしながら、被告の治療過程には初期治療から最終補綴までの治療計画の立案及びその提示がなく、あるのはインプラントの埋入に関してのみの治療計画である。当然これが〇〇氏(原告)の歯科治療計画に当たるものではなく、ただインプラントを埋入することに対する説明にしか過ぎない。
 
 つまり、被告の治療は、必要十分な検査及び検査結果に基づく診断と治療計画の立案がなく、歯科医師として患者さんに対して第一義的に行われるべき、顎・口腔機能の速やかな回復という観点が欠落しており、ただ漫然とインプラントを埋入するという方向に向けて進んでいたものである。
 従って、被告の歯科医師としての技量や診療姿勢を評価するとすれば、歯科医師としてあまりに未熟で拙幼であると言わざるを得ない。

☆次回に続く

実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その3)

2. 裁判から判決までの大まかな経緯。

こうして訴訟に至りました。提訴後は通常の流れに乗り、双方の書面のやり取りを裁判所を通して行いました。

まずは、こちらの請求の正当性を保証する証拠の更なる補完のための作業です。まず始めに現時点での原告の口腔状況の診断、これは私が行いました。器質的な歯や歯周状態及びテック(仮歯)や斬間義歯を含めた口腔の機能状態(日常、食事などが社会生活上滞りなく出来る状況かどうかなど。)を客観的に診断しました。

その上で、レントゲンやその他の資料などから、インプラントの埋入状態や治療の経過、原告の持っている領収書やインプラント手術に関する説明書、費用の説明のための書面やメモ類、そして原告自身の治療に関する記憶などを元に、何にいくらの費用がかかったのかを照らし合わせてゆきました。そして、それが正当とは思われないことをひとつひとつ根拠を示して相手側に問いただすという行為です。

そんな書面の遣り取りを始めると割とすぐに被告側はカルテは開示するとして、カルテやインプラントに関する費用を説明したときに用いた書類などが出て来ました。しかし口腔内写真や模型は出て来ませんでした。この時の言い訳がふるっています。いわく被告歯科では口腔写真は撮るが診断の為であって異常がなければ廃棄するので残っていないとか、模型については全然触れられていないとか。まあ、行き当たりばったりに思いついたことを理由とし、しかもその正当性が成り立っていないことに気づいていない感です。

後に意見書の中でこれらについては、容赦なく指弾していきましたが。しかし、カルテが出て来たのは助かります。

私はこれまで弁護士の依頼により、多くはありませんが、かといって少なくはない件数の歯科医療訴訟に患者側の協力歯科医として関わって来ています。これら訴訟又はそれに準ずる交渉行為(要するに弁護士を介した交渉)を為す時に一番と言っていい程重要なのがカルテ分析です。そういう意味ではカルテさえ手に入れば、徹底した分析をして治療に関する矛盾点、問題点を探し出す行為を行って来ましたし、私自身には苦にならない作業です。今回の件には、私がインプラントをやっていませんのでインプラント医を含め、全員臨床経験15年以上の複数の歯科医で徹底してカルテ分析を行いました。

しかし今回のカルテは私が訴訟がらみ以外も含め20数年以上見て来たカルテの中では最悪の物でした。なにせ必要な記載がそれこそ徹底して不足している状態、つまり治療の流れが系統的に追えないものでした。それでも我々は集まり、話し合い、また持ち帰って分析し、また会合を持つことを数回繰り返し、分析を終えました。率直に言うと、最初は困惑、最後はカルテから被告の心理面までも汲み取れる感にまでになり、あきれてしまう事の連続でした。

これにより被告側に提示する問題点、矛盾点をまとめ、それぞれについて原告弁護士に伝え今回の訴訟に活用してもらいました。そしてその後、お互いに相手側の主張に対する反論と、更なるお互いの主張及びその正当性を証していくやり取りが続いたのですが、その相手側の主張の裏付け作業の杜撰なこと。特に法的な場に於いては裁判所に敬意を示すというか最低限の礼儀というかアカデミズムというか医師としてのモラルとか矜持というか、最低、自分の主張することにはいい加減でない根拠があることをいちいち示しながら行うのが通常です。つまり、医科学的な根拠を、いわゆる教科書的な成書に出典を求めてそれを添付し示すことが必要です。これによりその主張が勝手な独自の根拠のない主張ではなく、広く一般的に求められる水準であることを示し特別に求められているものではないということを示し、主張の正当性を担保して行きます。つまりその添付する文献にはある程度の水準が求められるのが当然なのですが、被告歯科医師側の添付された文献にはインターネットで検索したある歯科医院のホームページの中の、その歯科医院のインプラントの説明だったり、治療の流れだったりで、言わば、広告のようなものをプリントアウトしたものでした。このような出典で医科学的な一般水準を示す根拠にしようとする姿勢に唖然とする他ありません。つまり、それを平気で出してくるということは、労力を掛け文献をきちんと探して示すということを為す意識や熱意がない、又は自分が何をしているのかが理解されていないかとなるでしょう。元々身につけた医療技術に学術的な裏付けがないことも透けて見えてきます。

このような経緯の中で、原告側の協力歯科医として、そのカルテ分析に携わったメンバーの連名で意見書を裁判所に提出するわけですから、自然と力が入ります。その意見書の実際を提示したいとは思うのですが、さすがにそれは差し障りがあると思われますので、その抜粋を書き出します。

☆次回に続く

実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その2)

被告へ2回目の手紙

私(林)から被告歯科医への手紙

拝啓

突然お手紙を差し上げることをお許し下さい。私は、OO氏(原告の氏名) より今回の件で相談を受けた林 歯科の林 晋哉というものです。本来なら書簡などは、OO氏(原告の氏名)より差し出すのが筋ではありますが、私から直接差し出す方が良いと思い送らせて頂きました。何卒ご容赦下さいますようお願い申し上げます。

さて、今回の経緯の中には先生にも色々とありますでしょうが、OO氏(原告の氏名)が最も得心のいかない点は、ことここに至るに十分な説明を受けていないという思いにあります。トラブルには大きいものから小さいものまで様々ありますが、出来得れば、大きくなる前に解決しておくことが得策ではないでしょうか。

そこで御提案ですが、OO氏(原告の氏名)だけと会っての説明は難しいということは十分に理解できますので、原則的には私とOO氏(原告の氏名)同席の上で先生からの御説明を受けるという機会を作っては頂けないでしょうか。又、それでも難しいという場合は、OO氏(原告の氏名)から了承を得ましたので、私だけでOO先生(被告歯科医師名)にお会いし説明を受け、それをOO氏(原告の氏名)に伝えるという機会を頂けませんでしょうか。

OO氏(原告の氏名)は歯科医療の内容には当然ながら知識はなく、OO先生(被告歯科医師名)がいくら説明を尽くしても伝わらないのではないかと思われる内容も、私は歯科医師ですので理解出来ます。そこでOO氏(原告の氏名)の同意も得ましたので、先生が私に説明をし、私も先生にいくつかの質問等をし、歯科医学的なことなどに照らし、ある程度内容の練れたものをOO氏(原告の氏名)に伝える事は価値のあることと思いますが、如何でしょうか。それによりOO氏(原告の氏名)の納得が得られれば良いですし、私も先生の御説明の趣旨を出来るだけ分かりやすく真摯にOO氏(原告の氏名)に伝え、納得が得られるように微力を尽くす所存です。

もしこのまま状況が動かず、医事紛争に発展するようなことになれば、仕事や診療を休んで裁判所に赴かなければならなかったり、先生、OO氏(原告の氏名)共にそれに費やす労力は大きく、身体的にも気持ちの上でも負担は計りしれないものと考えられます。
現時点でこのトラブルを解消し、以後大きく発展させずにする一助にこの御提案がなれば幸いと思います。又、日時などは、平日は夜7時以降であれば大丈夫ですし、日曜や祝日でも構いません。場所も先生の御都合の良い所で構いません。
何卒、御検討頂きこの御提案を受け入れて頂けますようお願い申し上げます。
敬具
平成2×年×月×日
林 歯科  林 晋哉

追伸:尚、私のプロフィールは、インターネットで林 歯科で検索頂ければ、御覧頂けることと思いますので、よろしければ御参照下さい。又返信に関しましては、封書の場合は上記住所、電話は03-3299-xxxx、FAXは03-3299-xxxx(自動受信)ですので、先生の御都合の良いもので結構です。では、よろしくお願い致します。

しかし、これにもあっさり、代理権限のない人に会っても仕方がないこと、警察に相談したら原告と関わりある人とは会わない方が良いと言われたことなどを理由に拒否されました。

これには原告と私で驚きを持った苦笑をせざるを得ませんでした。私としては代理権限など原告氏に委任状をもらえば済むことだとは解っていましたし、上記の手紙を持って警察に駆け込むというような、理解しがたい的外れの反応を平気でするタイプの人に、これ以上のアプローチをしても再び的外れな答えが帰って来て、まともに同じ土俵には上がれないだろうと思い、そこでもう仕方がありませんので、私の知り合いの弁護士さんを原告に紹介し、原告は法的な手続きを取ることになりました。

まず、原告の代理人弁護士から正式にカルテ開示請求をしました。しかし、これにもカルテ開示請求とはどのようにするべきかなどというカルテ請求の仕方を丸写しにして、弁護士に対して釈迦に説法のような内容と共に、理由としてはとても成り立たないようなことを並べ、あっさりと拒否するという、やはりあっと驚く的外れな反応がなされました。(通常、弁護士を通した請求はそれ自体が正式な請求として成り立つものです。)この時点で、被告歯科医師の相談相手にきちんとした法的関係者がいないことや論理的かつ法的なやり取りの経験者がいないだろうことが強く窺えました。

我々原告側は、相手の被告側にまともな法的関係者を付け、いわゆる普通のやり取りが出来る土俵を作る意味でも、正式に訴訟を起こして対処せざるを得なくなりました。

そこでまずは、「カルテ開示請求とそれが速やかになされなかったことに対する損害賠償を求める。」訴訟に至りました。

実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その1)

原告(患者)が私の友人だったこともあり、インプラント治療をめぐる医療裁判に係わる事になりました。これは原告(患者)勝訴で結審する実際の記録です。
(*左の写真は文とは関係がありません。あくまでもイメージです)

2010年11月に出版された拙著「歯医者の言いなりになるな!(正しい歯科治療とインプラントの危険性)」の冒頭に書いてある私の友人の個人情報開示等請求事件(平成21年(ワ)第44833号)に関わる訴訟の東京地方裁判所による判決が2011年に出ました。遅くなりましたが結果を報告させて頂きます。

結果は、被告側(歯科医師側)の主張を大きく退け、原告側(患者側)の弁護士費用の一部負担及びカルテ開示を速やかにしなかったことによる原告の受けた精神的苦痛などに対して慰謝料を認める、かなり異例といっても良い程の原告側の大勝利の内容でした。(カルテの開示はこの裁判の最中に被告歯科医師によりなされましたので、カルテの開示をするしないの争いは裁判途中になくなり、事実上、こうなる前にカルテの開示をするべきだったか及びカルテの開示が訴訟前になされなかったことによる損害と慰謝料の請求が争いの裁判となりました。)

そしてこの判決に対しお互いに控訴はなされず確定し、被告から弁護士を通して原告にお金も支払われました。

以下、この件に関し原告、被告双方に対し支障のない範囲で出来るだけ詳しく報告します。なぜならば歯科医側の医療に対する日常の姿勢の一助となると思ったことと、拙著に係争中として掲載していましたのでどこかで何かしらの形で報告すべきと前々から思っていたからです。

尚、この判決に関する当ブログからの内容の転載、引用などは決して行わないで下さい。

1. 訴訟に至るまでの大まかな経緯

まず、数年前に原告(私の友人)がインプラント治療を受けることを決心し、今回被告となった歯科を受診しインプラント治療を続けていたところ、同じ部位のインプラント体を埋入する一次手術とその数ヶ月後に行った、その頭出しなどの二次手術で、後日縫合処置をして出血の処置をしなければならなかった程の術後の後出血があり、その際の被告歯科医師の対応に失望し、医師ー患者間の信頼が崩れ治療継続が出来なくなった。

その後、困った原告は他の歯科にて診察を受け、そのままインプラント治療を継続しようとしたが、その時その歯科医師から被告歯科医師の行った治療について批判的な意見を聞いてしまい、怒った原告は被告歯科を訪れ、カルテ開示を口頭で請求したところ、カルテ開示請求を正式な手続きとして書面で行うように指示され、言われた指示に従い書類を揃えて提出した。

しかし、被告歯科医師はその批判をした歯科医師の連絡先を教えないことや、最初に直接診療所を訪れて来たことなどを理由に「事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」に相当するとしてカルテや治療に関する資料の全ての開示を拒否しました。
この時点に至って私に相談がありました。

私は話し合いで解決する方向が一番だと考え、まずは被告歯科医師に対して原告が患者として、どんな思いでインプラント治療を決意し、口の不具合とそれによるコンプレックスから逃れる為に強い覚悟を持って治療に通っていたか。そして、今回のカルテを開示してほしいという意味は、2度の出血で相当の苦痛を味わったので、その原因や、これからの治療を受ける上で必要な注意など、のきちんとした説明を受ける権利がある筈だということを丁寧に伝えるべきだとアドバイスして協力しました。方法としてはすでにその時点で書簡による手段のみを指示されていましたので、手紙にして送りました。その手紙の実際です。(裁判前の手紙ですので、原告に同意を得て、公開致します。)

原告の被告歯科医師あての手紙(個人名は伏せてあります。)

冠省

今回、私からの個人情報開示請求に対して、4月21日付けでその関係する資料全部に対する不開示の回答とその補足説明の書面を頂きました。それを見て、正直、驚きと気持ちの落胆は大きく、落ち込み、今まで経験した事がない程考え込んでしまいました。

私は、平成19年にインプラント治療を受ける前からOO歯科(被告歯科医院名)では歯科治療を受けており、OO先生(被告歯科医師名)の治療を通して信頼感を持って通院していました。

ご存知のように、私の歯は弱く小さい頃から歯の治療には嫌と言う程通わなければなりませんでした。そして、現在では、すでに健康な歯はほとんどないと言って良い程の状態で、この先どうすれば良いのかと思っていたところに、インプラントならば骨に固定させるので、自分の歯の様に噛めるという話しがあったことや、すでに治療を受けていた感じで良い先生だと思っていましたので、一大決心をしてインプラント治療を受けることにしました。費用にしても私の状況では無理な状態でしたが、私の親を始め兄弟などの理解の元、借金をして今まで遅れる事なくOO先生には支払って来ましたし、しっかりと噛める歯になることを思い、最後までOO歯科で治療を受け、そのための支払いの算段もぎりぎりながらもつけていました。

私のこの約2年に渡るOO歯科でのインプラント治療にかける思いは、どの患者さんにも負けないくらいのものだと思います。先生からインプラント治療にタバコはよくないと言われればピタリとやめたくらいです。私の友達などによくタバコをやめたなと言われ、その都度、インプラント治療をうまくいかすためだと答えていました。それ程、私は自分の歯と口にコンプレックスと不安があり、今回の治療が終われば歯や口のことから開放されると思い、先生を信頼し、自分も自分なりに良い患者になろうとして来ました。事実、これまでは特に問題のある患者ではなかったはずです。

しかしながら、去年秋に行った左下の1回目のインプラント埋入手術の時の手術後の出血が止まらず、結果的には手術の翌々日にOO歯科(被告歯科医院)で縫って止血をしたことや、また今年2月に受けた、その同じカ所の2回目の2次手術で同じように手術後に出血が止まらず、この時は、土曜日に手術を受け、翌日の日曜日には先生に連絡もつかなくなり、仕方なく日大松戸の大学病院で救急扱いでようやく縫ってもらい止血しました。

先生、想像してみて下さい。大袈裟ではなく本当に血だらけだったのです。1回目は木曜日に手術を受け、翌日に出血が止まらなくても仕事は休めず、私は大きな車での運送業をしていますが、指示通りに止血のうがいしてから、ティッシュやガーゼを何回も何時間も噛んだのです。その血だらけのティッシュやガーゼの残骸が山のように運転席に重なり、貧血になって事故でも起こさないかという不安などとも戦いながらも何とか仕事を出来る限り早くに終わらせ家に帰りました。しかし家に帰って安静にしても血は止まらず、一晩中ティッシュやガーゼをまんじりもせず噛んでいたのです。そしてようやく日が明け、土曜日の朝にOO歯科(被告歯科医院)で縫ってもらいようやく血が止まったのです。それまでやその後しばらくは液体や流動食のようなものしか口に出来なかったのです。それでも一度目に出血が止まらなかったことを十分に考えた上で手術をするのだろうから、同じような手術後の出血はないだろうとOO先生を信じ、一度目の手術後の出血のことには特に不満や不平を言わずに、2度目の同じカ所の2次手術を受けました。しかし、手術後にまた出血が止まらずに同じことが起こったのです。そしてこのときは、何かあったらいつでも連絡して下さいと渡された携帯番号に連絡しても、一度は電話に出られ、ティッシュやガーゼを強く噛んで下さいとすでに試している方法を繰り返されるばかりで、それでも出血が治まらないので、時間を空け、都合3、4度連絡してみましたが、呼び出し音はなるけれど応答はない状態になってしまいました。私は日曜日ということもあって、やっている歯医者もなく途方にくれ、診てくれる日本大学松戸歯科病院を探し出し、救急で止血処置を受けました。

私は指示を守り、的確に手術を受けた場所をティッシュやガーゼで強く何回も何時間も噛んでいたのです。それでも出血は止まらずに、本当に血だらけで、また1回目のような目に合うのかという恐怖や不安などの精神的苦痛を強く感じざるを得なかったのです。

そして、その後の治療にOO歯科(被告歯科医院)に通った際に、日大松戸で縫ったところを診てOO先生が、「こんな風に縫われちゃったんだ、また同じ手術をしなくちゃならない。」と言ったの聞いて、私の中の長年の問題だった自分の歯と口の悩みを解決するために、先生を信頼し辛抱強く治療に通う。という覚悟が崩れてしまったのです。

そしてそのままOO歯科(被告歯科医院)に通う気力もわかず、OO歯科(被告歯科医院)からも連絡はなく数週間が過ぎた頃、先生が私の自宅にみかんを持って来ましたが、やはり、私の先生に対する信頼が崩されたという思いは回復しませんでした。しかし私としてもこの歯の状態のまま過ごすことも出来ず、さらにこの治療途中の状態からきちんと治療がしてもらえるのかという不安も抱えながら次ぎの治療場所を探さざるを得なかったのです。私はいままでに書いて来た通りにOO歯科(被告歯科医院)で最終までの治療を受けたかったのですが、どうしても納得が出来ずに4月6日にOO歯科(被告歯科医院)を訪れ、言葉足らずで多少の感情的な面もあったかもしれませんが話しをした時に、OO先生に「では、今後の治療費は要りませんから」と言われてもやはり平気な顔をして今後もOO歯科(被告歯科医院)に治療に通うということは現実的に無理と思われました。そしてまた、今回貰った書面の中に4月6日のような威圧的な言動があれば然るべき対応を取ると書かれました。事実、4月6日には訪れていますが、暴れてものを壊したりなど、私はそこまで言われるような威圧的な態度を取ったとは思っていません。また、実際に4月6日以降は先生の言われる通りに書面のやり取りでわからないながらも個人情報開示の手続きをしたりして、再び訪れるようなことをしていないにも関わらず、2週間以上もたったあとの4月21日付けの書面で、然るべき対応を取るというようなことが書かれれば、私も気持ちがいいものではありません。

私が4月6日に訪れて伝えたかったことは、手術後に出血が止まらずに過ごさなければならなかった時間は、先生が思うよりは、深刻かつ心身ともに辛いことであり、手術を行う時は、手術後先生が出張で居なくなる時や、翌日が休みの土曜日などには見合わせるなど、もっと他にやりようがあったのではないかということ。そして、このよう経験をすれば、血が止まらずに困って連絡をしても連絡がつかなくなる状況などは、どうしても対応に不誠実なものがあったと言わざるを得ないということです。そしてなによりも出血の止まらなかったことにより、なぜ自分があんなにも心身ともに我慢を越えるような苦痛を味わなくてはならなかったのか。そして、その対応を含めた責任は先生には全くないのか。ということです。

そしてその原因が何であり、次の治療を受ける為にも、今後どのようなことに気を付ければいいのかを知ることです。

私には上記の事など、OO歯科(被告歯科医院)で受けた治療に関して納得の出来る説明を受ける権利があると思います。私はOO歯科(被告歯科医院)の業務に支障を与えるようなことは望んでいません。ですが最終的には診療終了後でも休みの日でも構いませんので、面談による説明を希望します。

以上、簡単ではありますが、私の思いを書かせてもらいました。先生の誠意ある御回答をお願い致します。

平成21年4月29日  原告 氏名

これに対して被告歯科医師は、「説明する義務があるとは思うがう少し待ってほしい。」という意思を伝える内容の返事が書簡でありました。そこで、その後数週待ったのですがなかなか連絡が来ないので再度書面にて問い合わせをしたところ、「色々と警察など公的機関に相談等をし、総合的に勘案したところ、カルテの開示は出来ないこと、これで交渉を打ち切るのでこれ以上のことは原告で法的にやったらどうか。」という返事が来ました。

それでもここはもう一度と思い、私から直接被告歯科医師に対して、問題を大きくせず何とか話し合いでの解決は出来ないかという書簡を送りました。

☆ 実録!インプラント治療をめぐる医療裁判(その2)に続きます。