総入れ歯の理想

作り直した総入れ歯がうまく使えるものだったとしても、それがその患者さんにとって最適な入れ歯なのかどうか、正直に言えば、私たちにはわかりません。

何度もくり返し検証していきますから「最適なものだと思います」とは言えます。しかし、「絶対にそうか」と聞かれたら、「わかりません」と答えざるをえない。

無責任だと思う人もいるもしれませんが、手がかりのない状態で総入れ歯を作るのは、それほどむずかしいことです。だからこそ、早い時期から「継ぎ足していく方法」を採ってほしいのです。

私たち兄弟は平均より歯が弱いタイプで、二人ともすでに小さな入れ歯を使っています。あと何年かすれば、かなり大きな入れ歯を使うことになると思います。総入れ歯になる年齢も人より早いでしょう。

継ぎ足していく入れ歯のゴールは、私達の総入れ歯の理想でもあるのです。

歯列模型は20代のうちに

歯列模型は、きわめて重要なデータです。若いときの模型があれば、その噛み合わせから「磨り減った分」を差し引けばいいのですから、理想に近い総入れ歯が作れます。

歯列模型は20代のうちに作っておくのが一番ですが、年配の方でも「もう手遅れだろう」などと諦めないでください。40代であれ50代であれ、絶対に作っておくべきです。

歯列模型は、どこの歯科医院でも作れます。ただし、「将来のために歯列模型を作る」という項目は保険にはないので自費になります。

費用は数千円程度ですが、1万円くらいかけて正確なものを作ってもらうのがいいでしょう。さらに言えば、その際に口腔内の写真も撮っておくべきです。これは入れ歯だけではなく、歯の治療全般に非常に役立ちます。

究極の歯科治療

総入れ歯をゼロから作るのは、かなりむずかしい作業です。歯科における究極の治療とは、総入れ歯を作り直すことだと言ってもいいでしょう。歯が一本もない状態を、歯がすべて生えている状態に戻すのですから、単純に考えてこれが一番むずかしい。

口の中というのは三次元の世界です。顎の動きは前後左右だけではなく、上下もあります。これに対して、噛み合わせは「面」です。三次元の世界で理想的な一面を決めるのは、きわめてむずかしいことです。

合わない入れ歯を無理して使っていた期間が長ければ、歯茎や顎骨が変形したり、噛み方に偏りが出たりするケースがよくありますが、その場合、使える総入れ歯を作るのはさらにむずかしくなります。

自由診療は技術料

よく知られているとおり、自由診療で作った入れ歯はかなり高価なもので、場合によっては百万単位のお金がかかります。

しかしその値段のほとんどは、技術料です。材料費が占める割合は数パーセントに過ぎません。保険だから悪い材料、自費だからいい材料ということは、基本的にはないのです。

材料の違いが入れ歯の「合う」「合わない」を左右することも、ほとんどありません。高価な材料を使っても合わない入れ歯が出来ることはありますし、安い材料を使っても合う入れ歯は作れます。

つまり問題は、作り方です。正しい方法で作られたかどうか。入れ歯の良し悪しはそれで決まるのです。

保険診療であれ、自由診療であれ

一般に、床はピンク色をしているものです。

歯茎に近い色ということでピンク色にしているのでしょうが、これでは圧を受けているポイントがあるのか、ないのか、入れ歯の上からでは確認できません。

圧を受けているところがあったとしても、床のどの範囲を直せばいいのか、確認するのに手間がかかります。

床を透明にする第二の理由は、「自然な色になる」ということです。床が透明だと、歯茎の色が透けます。これが一番自然な色であるのは言うまでもないでしょう。

ですから、透明な床は部分入れ歯だけではなく、総入れ歯にも使います。

「丈夫かつ弾性があり、透明な素材を使う」

などと言えば、それがとても高価なものだろうと思う人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。

特殊な例外を除けば、材料費は高くても数千円です。保険診療であれ、自由診療であれ、それは同じです。