前歯が飛び出していた

9年ほど前に来院した六一歳の女性も、そのケースです。この患者さんは左上の奥歯3本にブリッジに入っているほか、すべての歯が残っていました。残った歯の状態は良く、虫歯らしい虫歯もほとんどありませんでした。年齢からすれば、かなり丈夫な歯の持ち主です。

しかし、前歯が飛び出していた。一見してそれとわかるほど、前歯が飛び出しています。

話を伺ってみると、ブリッジを入れる以前は、前歯の飛び出しはなかったとのこと。その段階で考えられる可能性は、ブリッジの大きさが適正なものでない、ということです。大きすぎるブリッジを入れたために、歯列全体が圧迫され、前歯が押し出されてしまったわけです。

むろんこうなれば見た目が悪くなりますが、一番の問題は口の開閉に支障が出ていたことでした。話をするとき、あるいはものを食べるとき、飛び出した前歯が下唇に当たってしまい、激しい痛みが出ていたのです。当然、人と話をするのは苦痛になります。食事にも不都合が出ていて、豆腐や煮魚などやわらかいものばかり食べている、という話でした。

歯科医に不調を訴えたところ、その歯科医はブリッジの咬合面を削って調整をしたそうです。しかし、一時的には良くなるものの、しばらくするとまた元に戻ってしまう。何度やっても同じことのくり返しなので、とうとうその歯科医に見切りをつけ、私たちのところにやって来たわけです。

入れ歯は一体誰が作るのか?

私の知識では「入れ歯などの歯科技工は、免許を有する歯科医師か歯科技工士以外の者が行ってはいけない。」

となっているが、中国からの安価な入れ歯の輸入が合法との判決が下った。(*1)

その一方国内では、無免許で入れ歯などを制作したとして、歯科技工法違反で栃木で逮捕者が出ている。(*2)

おかしい!

入れ歯や詰め物などを入れる時は歯科医に確認するしか無い。

「私の入れ歯はいったい誰が作ったのですか?」と。

林裕之

(*1)義歯輸入禁止請求、歯科技工士ら控訴審も敗訴 (2009年10月14日21時59分  読売新聞)

 中国などで製作された安価な入れ歯などが輸入され、地位が脅かされているとして、全国の歯科技工士80人が国を相手取り、義歯製作の海外への委託禁止と損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が14日、東京高裁であった。

 倉吉敬裁判長は「歯科技工士法は公衆衛生の保持が目的で、個々の技工士に業務を独占的に行う利益を保障したとはいえない」と述べ、原告の請求を退けた1審・東京地裁判決を支持し、控訴を棄却した。

(*2)県警、歯科技工士法違反容疑で佐野の社長ら6人逮捕  (10月29日 下野新聞)

 

治療用義歯

林歯科には、ずっと自分の歯の状態の悪いのを気にしつつ、「歯の治療に行かなくちゃ、行かなくちゃ。」と思いながら、十何年とそのままになってしまって、やっとの思いで受診される患者さんが少なくありません。(最長で40年以上という方も居ました。)

このようなケースでは、やはり抜かなくてはならない歯が多く、義歯を入れることが大半です。しかしながら、このように大きな決心をして来院される患者さんのケースではほとんどの方が良好な結果を得ています。

この第一の要因は、患者さん自身の治療に対する強い気持ちですが、治療自体の成功要因は、ゆっくりと咀嚼システム自体を改善、回復し、口腔状況に適応させていくということです。

 

具体的には、こういうケースでは治療用の義歯を使って、噛める場所を徐々に増やしつつ口全体で咀嚼を行う練習をして行くということです。例えば、上下に義歯を入れなければならなくても、片方をまず装着し使えるところ

までいってからもう片方を装着していくということです。

このようにゆっくりと咀嚼システムを再構築し適応をスムーズに計ることが大事です。

あせらず、ゆっくり、あきらめず。これが大事。

林 晋哉

歯の曲がり角

人は長生きすればする程、失う歯は増える。老化現象のひとつなので、嘆く事でも畏れる事でもない。

変に抗うより自然の摂理と受け入れてしまった方がよい。

個人差はあるが50歳は歯の曲がり角。

だが幸いな事に失った歯を人工の歯(入れ歯)で補えば噛む機能は維持出来る。

入れ歯は年寄りくさいなどと、別の無理な治療(例えばインプラントなど)を闇雲に選ぶと高いお金で要らぬ苦労を買う事になる。

入れ歯は一番身近な人工臓器であり、高齢化社会にあっては長くつきあうもの。

まず偏見を捨てる事。次に入れ歯の得意な歯医者を見つける事。

難しい事だけれどもこれに尽きる。(林裕之)