ホテルニューオータニ、翠鳳の間で催されたロータリークラブでの講演内容

去る6月15日(水)ホテルニューオータニ、翠鳳の間で催されたロータリークラブでの講演内容です。
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目からウロコの歯の話、なぜかみ合わせは大事なのか?

講演者 林歯科/ 院長 林 晋哉先生

口とは何か、両手で三角形を作り、顔に当てると口と鼻がすっぽり入ります。命の循環は入れて出す、その入り口がこの三角の中に集中しているのです。命の源である口に不調があると全身に影響します。その口の健康に大きく影響するのが「噛み合わせ」です。

口は食べる、しゃべるだけではなく、噛みつく、物を保持する、愛情表現をするなどがあります。口のなかでも歯は特殊な器官であり、唯一外に出た骨です。

口がうまく機能するということは、軽やかに働くということです。
口を動かす時、誰も考えて動かしていません。なぜなら口をスムーズに働かすための咀嚼システムがあるからです。言語、歩行のシステムと似ています。歯が生えてきて、触れ合うことでこの場所に歯があるという情報が毎日脳に入っていき、脳が統御していきます。歯が一本不調になると、システムが変化していきます。

その変化が許容を越えると、システムに混乱を起こしていろんな悪影響が出てきます。システムを良好に維持するためには、システムが拠り所にしている歯から脳への入力を平均的にちゃんと入るようにしておくこと、つまり噛み合わせを正しく整えておくことが大事なのです。

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片噛みを続けていると片側の筋肉が発達して顎の骨が縮小します。
これは、機能から形態が引っ張られていることです。人体構造として2本足で立つことはすごく不合理で、重い頭部を支えるために首回りに強靭な筋力が必要です。この強靭な筋肉のバランスに強く影響を与える器官が口なのです。また、人間の祖先は猿と言われ、その祖先は魚と言われています。

この時代から魚の口の周りに大事なものが全てありました。この筋肉がどこに発達していったかというと、呼吸筋で、現代の人間の体全体に分布しています。口に不調和があると、全身に対して影響してもおかしくないということです。

歯科治療を一言でいうと顎口腔系へのストレスの軽減です。
ストレス因子は、咬合状態(噛み合わせ)、顎関節の状態、症状のある歯や部位の存在などがあり、特に重要なのは食いしばり、噛みしめです。しかし、なかなか歯科の世界で噛みしめ対策をするというのは広まっていません。噛みしめ対策の根本的な意味合いは、脳の中にできている噛みしめるという強い癖を取っていくことです。

単純にマウスピースをすることではありません。マウスピースも一番大事なのは噛み合わせがどこで噛みしめても安定できるように調整されているかどうかです。体の健康は口の健康が支える、口の健康は良い咀嚼システムが支える、良い咀嚼システムは正しい噛み合わせが支えているのです。

歯科医療は、成長期とそれ以降とでは明確な治療目的の区別が必要です。
成長期は正しい咀嚼システムと顎口腔系の育成と成熟で、それ以降は顎口腔系のストレスの総量を軽減していくことです。歯科治療の目的は無意識に両方で噛める状況を(入れ歯でもインプラントでも)きちんと回復し維持し、口を意識しないで社会生活を送れるようにすることです。口を軽く考えず、大事にすることこそが長く健康寿命を保つ近道です。

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医療の正義とは?

ここ数年、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の「正義」についての話しを耳にした人は大勢いるでしょう。私も「白熱教室」をテレビで見たり、「これから正義の話をしよう」という本を読んだりしました。

それまで「正義」という視点は生活の中にありませんでしたが、これをきっかけにあらためて「正義」というものを意識するようになると、色々な面で漠然と捉えていたものにくっきりとした枠が出来た感じがしました。

サンデル教授は、主に社会での富の分配や人類、国家のあり方について「正義」という視点、切り口でその本質に迫ろうとしていたと思います。

最初「正義」という視点はいかにも西洋的というか硬い感じを受けましたが、しかし実は日本ではなじみの深い「道徳」という観念が、サンデル教授のいう「正義」に近いのではないかという印象を持った後には違和感は少なくなりました。正義+哲学=道徳のような感じです。

「医療における正義とは?」

医療とは何か。健康の回復、増進、維持、予防に関わるもので、そのための行為が医療行為と言えるでしょう。

治療とは何か。医療行為の中の健康の回復の為の疾病の改善に対する医師による具体的な施術のことと言えるでしょう。

 では、医療における正義とは何でしょう?

一言でいえば、「患者に最大限の健康的利益をもたらすこと」でしょう。つまり正義的医療行為では、医師の違いによって患者にもたらされる健康利益に差があってはならないということです。一つの疾病には一つの治療方針であるべきです。

「歯科医療の正義」

しかしながら現在の歯科では、この最大限の原則(正義)が確立し、守られていると言えるでしょうか?私にはそう思えませんし、この原則自体への言及でさえ為されていないのではないかと思います。

歯科治療の目的は、歯を治すこと自体にあるのではありませんし、治療法の違いにあるものでもありません。どんな方法、手段を用いても歯科治療を通して、不具合や支障のない口の働きを回復、維持することです。

そして、最終的な目標は、「口を意識しないで社会生活を送れるようにすること」です。

「私の受けたい歯科医療」

では、それを実現するためにはどうしたら良いのでしょうか。医師は自分の担当する科目では、患者に最大限の健康利益をもたらすプロです。つまり、自分の科目では、自分の治療は自分でするのがベストです。

結局、「自分の受けたい治療を方法、手段に妥協したり固執することなく患者に提供する」ことが医療の正義である「患者に最大限の健康的利益をもたらすこと」につながる最も近道なのです。

だからこそ、私はこれからも、様々な分野の情報に感度の良いアンテナを張り、日々研鑽を積みながら自分の受けたい歯科治療を追求、実践し続けて行きたいと思っています。


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歯が抜け落ちる…歯周炎、「歯磨きで防げる」のまやかし、新事実浮上

第15回 歯が抜け落ちる…歯周炎、「歯磨きで防げる」のまやかし、新事実浮上

11月8日は「いい歯の日」でした。テレビニュースのトピックスなどでも紹介され、特に歯周病ケアに重点が置かれる内容が多く見受けられました。

歯周病は日本人成人の8割以上が罹患しており、世界中の疾患のなかでもっとも罹患率が高いといわれています。しかし、テレビ番組で紹介される歯周病ケアの内容は、相も変わらず「磨け、磨け」のオンパレードで、磨けば完全に歯周病を予防できるかのようなものでした。

歯周病は磨くだけでは治らない

歯周病は歯の周りの歯茎や骨がダメになって最終的には歯が抜けてしまう病気です。歯周病は「歯肉炎」と「歯周炎」に分けられ、この2つを合わせて歯周病と呼んでいます。大まかに、歯肉炎は歯茎や骨まで進まないもの、歯周炎は歯茎や骨まで進むものといえます。言い換えれば、歯肉炎では歯は抜けないが、歯周炎は歯が抜けてしまうものです。

歯肉炎も歯周炎も、歯に付着した汚れである「プラーク」(歯垢)に含まれる細菌が出す毒素による炎症が原因で起こるとされています。では、なぜ歯肉炎は歯茎や骨などの歯周組織を破壊せず、歯周炎になると破壊するのでしょうか。また、歯肉炎と歯周炎との境目はどうなっているのでしょうか。

これらは、長年臨床に携わってきたなかで、いつも疑問に思っていました。教科書的には、歯肉炎が進行し歯周炎となると説明されています。しかし、実際には、その説明と食い違う事象が見受けられます。

いくらブラッシング指導をしてもきちんと歯磨きをせず、歯と歯茎の境にプラークが常に存在し、歯肉のふちがいつも赤くなっている小学生などは臨床上よく見かけます。むしろ、このような子が普通といえます。ところが、子供では歯肉炎が年単位で長期にわたって存在しても、歯周組織が破壊されるに至ったという症例は、私が知る限りありません。

では、本当に歯肉炎が進行して歯周炎へと変遷するのでしょうか。私にはそうとは思えません。歯肉炎と歯周炎には明確な違いがあり、そこには何かが潜んでいるはずです。しかし現状では、歯肉炎と歯周炎との違いを「歯周組織が破壊され、再生しないものを歯周炎と呼ぶ」という以外に表せないのです。

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虫歯と歯周病の本当のところは?

晋哉#4先に書いた歯周炎に関する投稿を一般向けに書き直したものをすでにビジネスジャーナルの編集者に送ってあるのですが、やはり内容が伝わりづらいという判断なのでしょうか、12/2日現在掲載されていません。(11/21日再送信)

患者さんから見た歯周病

患者さんたちは、歯周病というとどのような認識を持っているのでしょうか? 歯肉炎と歯周炎は違うと言われてもピンとは来ないじゃないでしょうか。

でも、「この間、歯周病で歯を抜いた」という人の話は聞いたことがあると思うし、実際に経験した人もいるでしょう。

臨床上、歯周病は歯を失う最後の病態として最も多いものの一つであることは間違いありません。

自分の歯も歯周病で失いたくないし、歯科医師としても歯周病が原因で患者さんの歯を抜かなくてすむようになればこんなに幸せなことはありません。

でも現実には、いくら治療しても、いくら患者さんが頑張って歯を磨いても、歯を抜かなければならなくなる症例は少なくありません。
 
虫歯・歯周病への違和感

 歯科臨床に携わって満28年が経ちます。この間常々思って来たことは歯周病でも虫歯でも、「何で一本の歯だけなるのか?」ということです。口は一つの入れもので、プラークの中の細菌の出す酸や炎症誘発物質が原因なら、口の中のなぜ一本だけの歯が罹患するのでしょうか。

しかも、一本の歯の一部だけが虫歯で崩壊したり、歯肉の片側だけに炎症が起こったりするのでしょうか。付着するプラークの量が違うからなのでしょうか。

今日も数か月ぶりに来院されて、歯や歯茎との境に全体にべったりと汚れが目立つ患者さんがおられましたが、治療を必要する炎症像や虫歯はありませんでした。プラークの量という観点から言えば十分に治療の必要な所見があってしかるべしという状態です。

もちろん、様々な要因が絡んで物事は起こるのだということは分かっていますし、特に生命体の振る舞いは一筋縄では行かないでしょう。

ではなぜ、虫歯も歯周病も歯に付着するプラークの細菌が唯一と言っていいほどの原因とされ、これさえなければ虫歯も歯周病にもならないというようにされているのでしょうか。

それでもこれらの病気が撲滅に至らないのであれば、万人に当てはまる絶対に歯周病や虫歯にならない歯磨きが存在しないか、この前提がちがうのではないでしょうか。

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歯周炎 | 一般の方に分かりやすく手直し

periodontal disease

先週、ビジネスジャーナルという情報発信サイトの連載に寄稿した歯周炎に関するものに、多少の加筆、修正したものをこのブログに載せました。

そしてその寄稿文が編集されビジネスジャーナルに掲載されるのを待っていましたが、ビジネスジャーナルから内容が専門的過ぎて分かりづらく、このままでは掲載できないとのことでした。

読み返してみると、やはり一般の方には分かりづらいと判断されるのも仕方ないと思えましたので、再度書き換えて投稿しようと思います。

今回の歯周炎に関する投稿は、どうしても歯科医が多く読むであろうブログ村を意識したこともあって内容が専門的な方向へ傾いたのは否めないところです。

しかし、先週書いた歯周炎のブログの内容は歯科医の方達にはどう捉えられているのでしょうか?

私がこの歯周炎関連繊維芽細胞を知った時には大きな衝撃を受け、普段の臨床で歯周病に感じていた違和感や漠然としていた捉え方へ、はっきりとした道筋を感じたのですが。

炎症を伴わない歯肉退縮などの歯周組織破壊を日常の臨床上目にしていると思うのです。

例えば、乳歯から永久歯への萌え替わりの時に、乳歯の歯根吸収や乳歯の歯周組織の破壊が起こっている場面、また第一、第二大臼歯、親知らずなど萌え替わりではなく、新たに歯肉を破って萌出する場面では、細菌性の炎症によらない歯周組織の破壊が起こっています。

いわゆるアポトーシスのくくりでしょうか。

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実際、親知らずなどが萌出し始めている時のその現場に、歯周炎関連繊維芽細胞が発現していたりすると面白いのですが、歯周炎が完全にコントロール出来るようになることは、患者さんにも歯科界にとってもこれ以上ない福音です。

再三の紹介ですが、総説(日本語)「歯周炎薬物治療のパラダイムシフト」大島光宏先生、山口洋子先生著。 是非、ご一読下さい。

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