「めまい」と噛み合わせ。

言語障害が良くなった64歳の女性の例は、合わない入れ歯が「すでにある病気」を悪化させたケースですが、合わない入れ歯によって新しい病気が引き起こされることはけっして珍しくはありません。血圧が下がった女性の話はその一例ですが、もっと端的な症例もあります。

15年ほど前、私たちの病院を88歳の女性が訪ねてきました。来院の理由は、入れ歯の相談です。4年前に作った部分入れ歯が合わず、お粥のようなものしか食べられないので、新しいものを作りたいとのことでした。

治療に先だって問診をしたところ、その患者さんはめまいに悩まされていることがわかりました。一度症状が出ると、地震のような揺れを錯覚したり、目の前が真っ暗になったりして、2、3日は床に伏せたままになるという話でしたから、相当に重度のめまいです。介護人の付き添いがなければ危なくて外出ができないそうで、その日も付き添いの方が見えていました。

歯科医選びのポイント

情けない事に、噛み合わせと全身の関係を知らない歯科医がいます。歯科医でも知らない人間がいるくらいですから、外科医や内科医にも知らない人はいるでしょう。

このような現状がある以上、患者さんは自衛をしなければなりません。歯を治療するときは、顎口腔機能と全身の関係をきちんと理解している歯科医を見つけなければならないのです。

高血圧が改善されても

患者さんにとっても、治療した私にしても、高血圧が改善されたことは、実に嬉しいことです。しかし「合う入れ歯が入った」「血圧も下がった」と喜んでいるだけでは不充分です。そのことを高血圧症の治療をしている医師に伝えなければなりません。

降圧剤の服用は、入れ歯を作り替えたあとも続いていました。ですから、血圧が下がったのは降圧剤のおかげだと考えることもできます。しかし、入れ歯を作り替えたのを境に、血圧が下がったのも事実です。ここで然るべき検査をせずに降圧剤を飲みつづけていれば、思わぬトラブルが発生する危険があります。

高血圧症と入れ歯

以前、「部分入れ歯が合わなくて困っている」という患者さんが来院したことがありました。歯以外にどこか悪いところはないか伺ったところ、血圧が高くて降圧剤を服用しているとのことでした。

この患者さんが高血圧症になり、降圧剤の服用を始めたのは、60歳のときです。そして、その約1年前、下顎の部分入れ歯を作り直していました。作り直した部分入れ歯はうまく合わず、半年に1回のペースで調整を続けていたそうです。

口の中を調べてみると、入れ歯に不具合があり、奥歯の咬合関係がまったく確立されていませんでした。そのとき使っていた入れ歯を調整するだけでは問題が解決しないと予見されたため、入れ歯を作り替えることにしました。

新しい入れ歯が入ったのは、およそ1ヵ月後です。治療は成功で、患者さんは違和感なくものが食べられるようになったのですが、同時に血圧が下がりました。一時的に下がったのではなく、下がったまま安定した。合わない入れ歯を作ったときから発生した高血圧症が、合う入れ歯を作ってから改善されたのです。

してはいけない治療

私たちのところでは、治療を始めるにあたって、必ず生い立ちや病歴を問診しています。人間ドックに入ったことがある人には、人間ドック手帳を提出してもらいます。その患者さんにどういう既往症があるかを把握していないと、「してはいけない治療」をしてしまう危険があるからです。

歯は、人体から独立したものではありません。全身と密接にリンクしています。したがって歯の治療をするときには、患者さんがどういう病気を持っているか、しっかり調べなければなりません。逆に、歯の治療によって既往症が改善されたときは、それを既往症の治療にあたっている医師に知らせなければならない。このことは、一人でも多くの人たちに知っていただきたいと思います。