58歳(来院当時)の男性は、入れ歯に不具合があるので、現在入れている部分入れ歯をチェックして欲しいということで来られました。
上顎にチタンという金属を使った入れ歯を入れていましたが、この金属部分が割れてしまっていました。
これで分かるのは、この患者さんは噛みしめの癖が非常に強いタイプの方なのです。
常に金属部分が割れる程の力で噛み締める癖があるのでこの入れ歯は歪んでしまい、隙間が空いてしまっていて、全然合っていませんでした。
その結果、この入れ歯で食事をすると痛いので全然噛めず、食事の時ははずして数本残っている右側の自分の歯だけで噛まざるを得ないというのです。
そこで、入れ歯を作り直すことになるのですが、この患者さんのケースで最も大事なのは、徹底した噛みしめ対策を行い、噛みしめ癖を弱めなければどんな入れ歯でもすぐに歪んだり、壊れてしまうということです。
この時大切なのは患者さん自身が悪いのではなく、噛みしめるという悪い癖が強く身に付いてしまっているということへの気付きと、それを改善しないと入れ歯治療がうまく行かないということを十分理解してもらうことです。
この前提がないと、患者さんとしては普通に生活しているだけで強く噛みしめているという自覚もないのに、入れ歯を割る程強く噛むあなたが悪いというような見方をしてしまうと、患者さん自身も、それならば「強く噛んでも割れない入れ歯を作ってくれ。」となってしまいますし、もし割れない入れ歯が作れたとしても、噛みしめる癖があれば、粘膜が痛くなってしまうのは当然の理なのです。
こうしたことを踏まえて、出来うる限りの工夫も施し、上下ともに優しく噛み合わせられるように作りました。その後は定期的にメンテナンスに来られて、それから11年間その入れ歯を使っています。
このように、一人ひとりの患者さんの噛みしめ癖などをきちんと把握して、その人に合った方法で入れ歯を作り、管理していくことが、とても重要なのです。
「歯医者の言いなりになるな!」角川oneテーマ21新書より抜粋