1本義歯

1本義歯

さてそれでは、1本だけ歯が抜けたときは、どのようにして補えばいいのでしょうか。私たちのところでは、原則として1本義歯というものを使います。

写真が、その1本義歯です。ご覧のとおり、抜けた1本分の義歯です。義歯にはツメのようなものがついているのがおわかりになると思いますが、これを隣の歯に引っ掛けます。

ツメは金属で出来ていますが、弾力があります。たわむのです。ですから、ツメというよりはバネだと言ったほうが正確かもしれません。

1本義歯を入れるとき、ツメはいったん広がります。歯の直径が一番大きくなっているところに入ったら、収縮してパチッと抱えるわけです。したがって、簡単に外せます。ツメを引っ掛けるといっても、固定するわけではありません。

ツメの役割は、ものを噛んだときに落ちない(浮かない)ようにすることです。ものを噛んで落ちそうになったときに抵抗するだけで、普段からギュッと強い力で歯を抱えているわけではありません。ですから、隣りの歯にかかる応力はごく小さなものです。むろん隣りの歯は削りません。ツメを入りやすくするために、ほんの少しだけ削ることもありますが、それはごく稀なケースです。

入れ歯の経済性

新たにできた3本分のブリッジを作って、これを健康な歯と繋ぐことは、技術的に出来なくはありません。しかし、2本の歯で3本分の義歯を支えるのは、力学的に不適応です。

要するに、入れてもすぐに取れてしまう。ブリッジの問題点に気づいていない歯科医でも、新たな2本の歯を土台にして、5本分のブリッジを入れようとはしないはずです。

したがって、ブリッジが抜けたら入れ歯を入れることになります。しかし、だったら最初から入れ歯にするべきでしょう。「1本抜けたら1本補う」という当たり前のことをしていれば、健康な両隣りの2本は本来の寿命まで使える可能性が高いのです。経済的な点から見ても、そのほうが安あがりです。

ブリッジの問題

ブリッジの問題に戻りましょう。ブリッジを求める患者と勧める歯科医が多いのはなぜなのか。

その理由は、大きくわけて二つあって、一つはブリッジの保険点数が入れ歯よりも高い、ということです。端的に言えば、儲かるから勧める。

もう一つは、健康な歯を削ることに疑問を持っていない、固定することが「いいと思っている歯医者がほとんどです。入れ歯を「嫌なもの」と考え、ブリッジを勧める歯科医もいます。入れ歯なんて面倒でむずかしい、多少のデメリットはあってもブリッジのほうがいい。

そう考えている歯科医がいる。しかしブリッジは、いつか必ず抜けます。土台となっている歯もいつか抜けるのですから、たとえば、ブリッジと一緒に2本の土台の歯を失ってしまえば、その人の口には歯3本分の空白が生じます。その新たな空白は、ブリッジでは補えません。

前歯が飛び出していた

9年ほど前に来院した六一歳の女性も、そのケースです。この患者さんは左上の奥歯3本にブリッジに入っているほか、すべての歯が残っていました。残った歯の状態は良く、虫歯らしい虫歯もほとんどありませんでした。年齢からすれば、かなり丈夫な歯の持ち主です。

しかし、前歯が飛び出していた。一見してそれとわかるほど、前歯が飛び出しています。

話を伺ってみると、ブリッジを入れる以前は、前歯の飛び出しはなかったとのこと。その段階で考えられる可能性は、ブリッジの大きさが適正なものでない、ということです。大きすぎるブリッジを入れたために、歯列全体が圧迫され、前歯が押し出されてしまったわけです。

むろんこうなれば見た目が悪くなりますが、一番の問題は口の開閉に支障が出ていたことでした。話をするとき、あるいはものを食べるとき、飛び出した前歯が下唇に当たってしまい、激しい痛みが出ていたのです。当然、人と話をするのは苦痛になります。食事にも不都合が出ていて、豆腐や煮魚などやわらかいものばかり食べている、という話でした。

歯科医に不調を訴えたところ、その歯科医はブリッジの咬合面を削って調整をしたそうです。しかし、一時的には良くなるものの、しばらくするとまた元に戻ってしまう。何度やっても同じことのくり返しなので、とうとうその歯科医に見切りをつけ、私たちのところにやって来たわけです。

ブリッジの最大のデメリット


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写真は、ある患者さんが使っていたブリッジです。

歯の根が付いたままです。低く見積もっても40万円はする自費のブリッジです。このような写真があるのは、むろん抜けてしまったからです。左上の臼歯を一ぺんに失ってしまいました。

このブリッジには、土台となる歯が3本あります。通常、土台となるのは抜けた歯の両隣りだけですから、1本余分に土台を作っているわけです。

土台を3本にした理由は定かではありませんが、おそらくこのブリッジを作った歯科医は「橋げた」が多いほど「橋」が安定すると考えたのでしょう。あるいは、小さな虫歯があった。虫歯を削るついでに、土台にしたわけです。

歯とブリッジの結合部分を見ると、ぴったり合っています。これを作った技工士は、相当な腕前です。

しかし、このブリッジは、抜けました。土台となる歯は通常よりも多く、歯とブリッジの結合部分がぴったり合っているし、高額な治療費をかけたのに抜けてしまった。

抜けた原因は色々な要素が複雑に絡み合った結果でしょう。しかし一言でいえばその歯が耐えられるストレスの総量を越えてしまったということです。そして、そのストレスを軽減する調整や指導をこの歯科医はできなかったのです。

残念ながら、こうしたケースは案外多いのです。ブリッジは一ぺんに数本の歯を失ってしまうことが多いという、ブリッジの最大のデメリットを如実に物語っています。